ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~最初の成果~

2014-10-24 Category:軽度アスペ・ACな妻

イベント繁忙期の夜明け

太腿の付け根にヒリつくような疲労感を感じながら、長く続く急斜面を早足で登る。大げさに手を振りながら、半ばヤケクソ気味にフォームを強調し坂を登り切ると、そこには地域一帯の風景が見下ろせる自然公園の広場に出る。
自然と田園風景と、なにより絶妙なバランス感覚で配置されている住宅地。自然ばかりであれば感嘆で終わるところだが、この地域は新興住宅地と古くからの家屋が混在していて、この高台からも人が息づく生活の気配が感じられる。……だから、飽きない。
関東を離れ、この地域に越してきて早くも6年が過ぎた。
越してきて以来、この散歩ルートは運動不足になりがちな私たち夫婦にとって、ちょうど良い運動強度と“家庭と仕事の打ち合わせ・与太話”をひと通りこなせる時間となる。ただ、ここ1~2ヶ月ほどは非常に忙しく、この“お散歩会議”の時間すらなかなか調整できなかった。今日はようやく予定していたイベント繁忙期のメインイベントがひと通り終わり、通常の仕事だけとなったので、一発荒療治にと“ウォーキング会議”にランクアップしていた。
歩をゆるめて、まだ治まらない息切れを整えながら、隣で同じく酸欠状態の妻に話しかけた。
私『しかし、やっと今年のイベント繁忙期も終わったね』
妻『うん、最初はどうなるかと思ったけど、今年はほとんど問題らしい問題も起きなかったから良かったよ。大変だったのは……イベント集中期間前だったよね』
夏休みの仕事調整から里帰り、両親・親族への娘の報告、長男の問題再燃と史上最大のぶつかり、そのままの流れでこの毎日のようにカレンダーにイベントが記入される一ヶ月に突入。確かに妻の言うとおり、このイベント繁忙期は問題らしい問題も起こらなかったのだ。例年のこの時期はまず子供たちの誰かがイベントに潰れ、硬直や癇癪、体調不良を起こすなど平常でいられた日はなかったとしても過言ではない。
それが今年は誰も潰れず、またテンションが振りきれて問題を起こすようなこともなく、一つ一つのイベントに手応えのある対策を打って行くことが出来た。これは長男が生まれて以来の……いや、私たちが結婚して以来、初の快挙だった。
そして、なにより───。
私『……実は2冊のスケジュール帳作戦から、君は一度もパニックらしいパニックを起こしていないんだけど気がついた?』
妻『んん? スケジュール作戦から……? ……あっ、本当だ!』
そう、妻がスケジュールが氾濫するこの最も不安定になる時期を、一度も離人状態にもフリーズ状態にもならず、完全に平常通りかむしろいつも以上に子供たちのケアも踏まえて動いていたのだ。
実際、妻の停止や不調から子供たちの不安定につながることも多く、同時に妻の支えを失う私にとっては、様々な家庭と仕事のフォローと孤独感との闘いが続く期間でもあったのだ。これが今回、一度も起きていないし、本人も今のリアクションの通り、それほど特別な意識を持たずに乗り過ごしている。それが1ヶ月近く継続した。これは初めてのことだ。
私『……こりゃあなぁ、アレだわ』
妻『……こりゃあねぇ、アレですわよ』
私・妻『宴だ』

イベント繁忙期に荒れた理由

毎年わが家が激しい低迷状態に陥ってきたこの繁忙期を、なぜこうも軽く切り抜けることが出来たか。もちろんそれは子供たちが“依存”や“距離感”に対する認知のズレを把握できたことや、年齢的な発達を獲得してきたという事もある。
しかし、何より大きいのはここ数年で蓄積してきた、彼らの特性のデータとそこへの【人に説明出来るだけの明確な対処】が確立されつつあるからだろう。これらの蓄積は以前からの独自な対処も多く含まれるが、加速度的に進んできたのはやはり【自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)】と言う存在を知り、その特性と先人たちの残してきた多くの知恵に授かれたことが大きい。
まず、ここまででイベントが密集する時期に、わが家がどんな流れでそんなどんな問題にぶつかったかと言えば、簡単にすれば次のようになる。
子ども達の流れ
1:イベントに合わせた保育所や小学校での生活の変化に、消化しきれない疑問やズレが起こり、未解決のまま本人の意識下で無意識のうちに思考力の容量を奪い続ける
2:容量が低下する中、自分のするべき事や立場を見失い、ただただ周りに合わせて自分の表情や言動を取り繕おうとする
3:自分の気持ちや知識などが反映した、実感のある判断での言動ではないため、ニュアンスだけで合わせている状態から“ここまで”などのボーダーを失う
4:1~4までの問題も無意識化で容量を食い続けるため、“悩んでいる”という実感もないまま、やがて日常生活での人間関係やコミュニケーション、様々な活動への余裕も失う
5:これらのズレから問題が起こり始めると、自責や自信喪失が始まり、フリーズや癇癪が起こりやすい自己評価低下や離人状態が続く
ここまでが子供たちに起こっていた流れだと考えられる。そして、問題はこれだけではなく親の方にもそれぞれの流れが起こる。
妻の流れ
1:イベントが増えていく中、カレンダーに記していない“準備するための日”や“直前まで日時が未定なイベント”など、決めきれなかったり采配に任される部分への思考が、切り離せずにこびりつく
2:そんな中、長男と娘の不安定が始まるが、【こういう時はこうするべき】というマニュアルばかりに気持ちが向かい、自分の気持ちや意見で動くことが出来なくなる
3:要望の出し方や甘え方、意見の通し方など理論が上二人とは異なる次男も、低年齢のため、段々と疲れが溜まりグズつくようになるが、兄弟ごとの展開についていけずフリーズが始まるようになる
4:2の段階ですでに【自分はどうしたいか・どう感じているか】を見失っているため、現実感が遠くなりフリーズとパニックが起こりやすい離人状態に陥る
5:“イベントをこなす”、“子供たちのケアをする”など様々なやるべきことへの使命感が、やがて【なにかしなくちゃ】という己へのオープンクエスチョンになり、目につく物・手につくものに考えなく振り回されるようになる
6:やるべきことが押さえられなくなるが、使命感による焦燥感が強いため、アドバイスや提言をされるだけでも【自分は出来ていない】と自己評価を下げてしまい、実際よりも大きな問題として捉えてしまい、それが元でさらに余裕を失っていく
7:常に緊張し張り詰めていながら現実感のない状態が続き、目の前にふと問題定義が起きた時だけ反応するようになる
つまり、伴侶が常に余裕を失い、かつ【そこにいるのにそこにいない】【一緒にいるのに気持ちが同じ世界にない】状態に陥る。そしてこれらの流れは私に様々な段差を作り出す。
私の流れ
1:スケジュールから家族の陥るであろう流れを予想する。先に手伝えることや打てる手を模索し、それを本人たちにも相談したり説明をする
2:長男や娘が余裕を失い、関係性や距離感を失うことで注意やアドバイスといった働きかけはもちろん、私といる事自体が“何かしなくちゃ”を煽るなどの感情の引き金になるため、【つかず離れず】の間合いが要求される
3:妻を通しての子どもへの働きかけが中心となっていくが、妻自身の離人感が出始め、子供たちの小さな仕草や表情の違いなどに気がつけなくなるため、後手後手に回り始める
4:子どもには特定の距離感で、妻にもケアをしながらパニックを起こさせないタッチで、しかしイベント失敗はさらに大きな被害を生むため、裏方でタイミングを見計らった指摘が要求されるが、素人オヤジに何かできるはずもなく
5:結局、一度ぶつかるなどのショックを生み出して、本人たちを“目を向けるべき場所”に気づかせるために前に出ざるを得なくなる
6:問題自体は解決しても、本人たちの自発的クリアではないため、手応えのない完了のままになり、自分が動いてしまったことに“それが適切であったか”と自問するような完璧主義的な心理状態に誘導されやすくなる
特に同時多発的に3人がフリーズ・パニックに陥った場合の対処は難しく、まずは離人感から引き戻すだけのショックを与える方法を考え出さなければならないが、その度合も再度他のメンバーに影響を与えかねないため常に考え続けることが必要になる。
結果、自分の仕事との世界観の違いに、調整をかけるのが難しくなり、集中力の低下・抜けない疲労感など頭がボーっとする様なのぼせ感が起こりやすくなる。彼らのフリーズ・パニック中は、特に一緒にいる時間が長くなるほど考える要素は増えるため、休日明けなどは起き上がれないほどの疲労感に襲われる事も。
と、これらの流れが例年起こっていたわけである。
これらを同時に解決することは不可能に近いが、ひとりひとりの【何に思考力を奪われやすいか・なぜ思考力を奪われたか】を明確に把握していくことで、彼らのフリーズ・パニックはもちろん、思考力低下状態自体に対策を打っていくことは可能だった。
それらに手を打ち続けようやく、スケジュールと活動内容さえわかっていれば、全員が“思考力低下状態を防ぐ”まではいかなくとも、“フリーズ・パニックまでには行かせない”だけの手がそろってきたと言うこと。
……ただ、正直ここまでのやりとりの中、何度となく支えきれずにフリーズ・パニックに陥り、大きく開いたように見える距離感を感じさせられると、自分が無駄なことをしているように思えたり、むしろ逆に彼らを苦しめているだけなのではないかと、しょっちゅう胸のを締め付けられては、また支えきれないことへの無力感に苛まれた。
何よりお互い苦しんだのは、フリーズ・パニックは単に混乱しているだけではなく、そこに至るまでに思考の余裕を奪われているために物事への感じ方が、【0か100か】や【全か無か】などの両極思考に陥っていることが多いことである。この自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)にあるとされる特性は、自責や憤り、罪悪感なども極大化することが多く、そこに受けたショックに対して思い浮かべる反応も極端な結果としてはじき出される。
【もうどうしたってダメなんだ】
【もうどうしようもない】
【いなくなってしまいたい】
支えるべき家族が、支えきれずに極端な答えを出して、問題に関わることを終わりにしてしまおうとする姿を見るのは激しい無力感を生む。さらに私の場合は、かつて自分が自死に対し考えをよぎらせ、愚かな選択をしようとした事があるだけに、彼らがその終末的な答えにすがりつく姿を見ることは、同時に過去の自分を薄っすらと思い返す事にもなる。
これらがここまでで起こっていたわが家の負のスパイラルの全容と言ってもいいだろう。

最初の成果

公園をぐるっと回り、山沿いを住宅地に抜けるコースを進むと、古い木造家屋が密集する一角が大規模な取り壊し工事をしている。ふと足を止めて見入っていると、ホコリの匂いと共にどこかその家庭で培われたであろう、民家の匂いが流れてきた。確かこの家は私たちが来た時から人がいるのかいないのか、時折手入れはされていた様子はあったが。長く人が抜けても、かつての暮らしの名残は残っているものなんだなと物悲しくなる。
しかし、そのすぐ隣りの区画ではすでに新たな基礎工事が始まっていて、型枠大工の金槌の音があたりに響いていた。
土煙を上げながら、今までの表面的な外壁や内壁が取り壊され、その建物の真の骨組みがあらわにされながら、その構造を意識させつつ更地へと向かう。その隣ではこれから新たな建物が立つべく、堅牢な基礎が築かれようとしているのだ。そこには恐らく、今取り壊されている木造家屋に対し、新たに耐震性能や断熱性能など、より性能が明確化された構造物が建つことだろう。
……何とも象徴的だ。
ここまでわが家では色んな対策をとってきた。今まで鬼門とされたイベント繁忙期のこの時期も乗り越えた。では、私たちは何か根底から変わったのだろうか?
いや、単に【メモリを奪う要素を排除】し続けてきただけだ。何かを感じる、何かに心を奪われることは変えられないが、そういう時、何処までそれを大事にすればいいか、それがあっても忘れてはいけないことはなにか。人間として何か生まれ変わったわけでも、新しい能力を得たというわけでもない。元々持ち得た処理の仕方を、特性という目に見えるものから逆算して、ちょうど良い位置にちょっとしたパーソナルスペースを作るようなものである。
その繰り返しが少しずつ余裕を生み、その繰り返しが少しずつ彼らの態勢を整えてきた。今回の成果の理由を簡単にいえば
・イベントや生活の変化で起こりうる反応と潜伏期間の想定
・そうなった場合にどんな反応になるかの想定
・あらかじめ起こりうるであろうズレを『~~とか考えてない?』と具体的に打診
・余裕が落ちてきたら声を掛け、その原因を一緒に突き止める
・これから予定されることは全て内容からおさらいして構造化する

・やらなきゃいけないけど、辛くなってきたら楽しく愚痴れるように努力、声がけ

さらに縮めてまとめると、スケジュールが確定次第、その内容とやるべきことを把握し、それがどれだけの面倒臭さで、どんな立場でいればいいか、ズレたり予定が狂うとしたらどんな形で、どう処理するのがいいかと徹底的に流れを構造化し見通しを立てたということ。そして、そこに至るまでにフリーズ・パニックからの引き戻し方と、こだわりやとらわれに固まってしまった時の対処を文字通り体当たりで探し当ててきた。
泥臭く小さいながら、それでも現実に達成した、わが家の最初の成果である。
ただ、これもあくまで【フリーズ・パニックが起きやすい流れへの態勢作りに成功】であって、社会生活の上では更に多くの構造化していくべき事柄が溢れている。それも追々、ぶつかって時には壊して見なければ分からないくらい、現場主義な性質のものだということも、もう嫌というほど分かっている。
まあ、それはそれ。今夜は宴だ。もう奈良漬けみたいになるまで謳歌してやろうじゃないか。
疲労物質ですでにパンパンの足も軽やかに、私たちは家に向かってコースを歩いたのだった。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~自己肯定感~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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