ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~霧の正体~

2014-06-06 Category:軽度アスペ・ACな妻

【あいさつ】への呪縛

娘に【お父さんが部屋に来た時、すぐにあいさつとかしようとしなくていい】と伝えたその日から、彼女は意識的にそれを実行しようとしていた。私もその意思に応えて、最初はわざとリビングを通りすぎて別室で数分待機し、再度リビングに戻るという二段構えで接した。
始めたばかりで、いきなり娘がスムーズにできるとは、まず考えられなかったからだ。別室待機の数分は、彼女から動く心の準備をさせるため。最初の数回は妻に手伝ってもらい、私が別室に行った時に、娘の背中に手を当ててもらうようにした。
そして、私も薄暗い別室で、笑顔の準備をする。
今までの数多い失敗の記憶がある中、自然とまではいかないにしても、ある程度は意思統一を図る必要があった。……まあ、それだけ娘からの手のひら返しは、私にとって痛手であったということである。
娘『……おはよう』
私『おはよう』
最初、やはり娘の表情はまだ蝋人形の様であった。
そういう時は私も彼女の顔をしっかり正面からは見ないで、やや視線を首元に落とし【あら探しはしてないよ】を表しながら返した。
2日目からはかなり自然な笑顔で挨拶をするようになり、妻の介助も必要なくなった。そして、あいさつ以外の時に何か言わなきゃと思ってしまったら、【手を上げて“おー”とやる】を自発的にするようになった辺りで、私も意図的に笑顔を作ることを徐々に控えていった。
これさえやってればいい
笑顔を意図的に作るのをやめたのは、彼女がすぐに飛びついてしまうこの言葉を防ぐためだ。今はまだ挨拶をした後に、だいぶ薄くなったとはいえ作り笑顔や演技がかった表情でこわばっている。これはまだ無駄な意識や、私との関係に意図的なものを作り出そうととらわれている状態だ。
ここで【これさえやってればいい】と切り替えられてしまうと、私が来る度に挨拶のタイミングを図ることだけに夢中になり、それが済むと意識しすぎる方向に進むのが目に見えていたからだ。今までリラックスさせるための、あらゆる手段が失敗に終わったのは、彼女のこの思考パターンの影響がとてつもなく大きい。
他の方法が思いつかないのだから、そこにすがりついてしまうのは分かる。しかし、結局は自分を追い詰めていることも理解しなければ、私とのコミュニケーションだけでなく、他人とのつながりの中で同じパターンに陥らないとも限らない。
そのためには、あいさつに関するこの儀式は、なるべくあっさりと【当然なもの】でなければならない。
これは今までの数百に及ぶ、娘との【距離感】に関する闘いから得た、つかず離れずの極意でもある。私がかつて思い込んでいた【こども】の様に、出来たことをおおげさに褒めたり、ただただ心地よい環境を提供するのは、彼女の認知を押し曲げたままになってしまう。彼女にとって今必要なのは【いつでも優しい親】ではなく、彼女の漠然とした不安を取り除くための【適切な距離や認知を示す親】だと、お互いに身を持って痛感してきた。
彼女はいつも私の入室時に【笑顔かそうでないか】を確認し、笑顔でない限り不安に打ちひしがれながら【やらなきゃいけないあいさつ】をし、笑顔であれば【構ってもらうためのきっかけにするあいさつ】としてあいさつの意図を外れてきた。つまり、依存する相手にあいさつすることに、必要以上の想いと心の労力を割いて来たのだ。
そして一度受け入れたルールに忠実な彼女は、あいさつすることに関しては絶対的な使命感を持っていた。
これは呪縛だ───。
そして今、その呪縛が新たなアプローチで紐解かれ始めた。
私が入室してから、10分以内にリラックス状態に安定できるのが確認できたのである。
わが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)当事者の3人は、最初につまづいたり不安を感じると、自力で戻ることが非常に困難になることが多い。娘にとっては最初に【父親を推し量る】という自らつくり出した難問を説かずに済んだことで、後々の関わり方にまでかなりの余裕を回せるようになったということだろう。
娘を覆っていた分厚い氷が、後もう一歩のところまで削り、溶かしだすことに成功した。同時にひとつの推論を得る。それは娘が縛られている【父への意識】の正体についてである。

霧の正体

今まで感じていた娘と私の間にある、霧のようなモヤのような存在。どこまで踏み込んでいいのか、どこに触れていはいけないのかが読み取れないのはもちろん、なぜ娘が私に対してそうしているのかが全くわからなかった。
したいようにさせても、こちらが楽にあるようにうながしても、結局彼女はパニックになるところまで突き進み失敗に終わってきた。
食を絶ってから20日目。
私は娘を一番静かな和室に呼び、正面ではなくやや斜め横に位置するように座わらせ、目を見なくても良いと伝えた後に本題を切り出した。
私『あいさつはすぐにしなくてもいいって、まだちゃんと守ってくれてるね。ありがとう』
娘は一瞬、私の顔をうかがおうとしたが、すぐに窓の向こうの木々へ顔を向け、ちょっと嬉しようにうなづいた。
私『最初にお父さんの顔を見ないだけでだいぶ楽になったんじゃない?』
娘『うん。ぐるぐるしたり、きゅ~ってしなくなった(※おそらくパニックと離人状態のこと)』
私『それはよかったね。もしかしたら、最初っからあいさつする時におとうさんの気持ちを知ろうとしなくてよかったのかもね』
娘『あー……』
口を開け、やや頭を傾けながら目を大きく開けて遠くを見る。彼女が難しくても関心の大きい事に直面した時、それを受け入れようとする時にみせる、全力で思考するための仕草。これを見て私の推論は確信へと変わった。
私『娘はお外で他の人へのあいさつするのが凄く上手だよね』
娘『うん。優しくしてもらえる』
うちの子供達があいさつをしっかりするのは実は近所でもちょっと評判だったりする。
これは人見知りをする長男に【にっこりしてあいさつされると、ほとんどの大人はにっこりしてくれるから試してみ】と振ったことから端を発する。
当時3歳の長男は、この反応をもらえることが嬉しかったらしく、どこに行っても笑顔であいさつする楽しさに夢中になっていた。同じくらいの頃の娘も、同じく人見知りをするようになったが、なかなか長男の時のようには行かなかった。
にっこりあいさつするのは『いいこ』って思ってもらえる。ふだんからそう思ってもらえていると、困ったときに助けてくれるかもしれない。助けてくれる大事な人をたくさん作るのもあいさつ
彼女はその頃、【いいこ】【大事】という言葉への反応が強かった。【助けてくれる人】は彼女が非常に怖がりで、ヒーローやお気に入りのものなどを形容・賞賛する時に、なにかしら『たすけてくれる』を多用していた時期があったので、こういった提言になった。彼女には効果が高く、すぐにあいさつを進んでするようになる。
途中からはそう言った【助けてくれる人】という考えから、周りの大人に優しくしてもらえた経験が勝り、ややあざといものの、本人なりにあいさつを楽しんでいるようだった。
私『娘はあいさつだけじゃなくて、“いいこ”って分かってもらおうとしてるもんね』
娘『うん!』
私『知らないお友達だって、そうやって自分から話しかけたりすると仲良くしてくれるでしょ?』
娘『うん。◯◯ちゃんと、◯◯くんと、◯◯くんと、◯◯ちゃんは~~組さんの時にわたしから話しかけてなかよくなった』
私『……す、凄いね。よく憶えてるね。まあ、そういうことだよね』
娘『うん、そういうこと』
私『でも、今はそのお友達とか先生とかに“私はいいこ!”って分からせようと、頑張ったりしてるの?』
娘『ううん。しない。しなくてもなかよしだから。◯◯せんせいと◯◯せんせいの他にはちょっとするけど』
その二人の先生は、娘の担任と補佐の先生のことだ。
今年度は先生の入れ替えが激しく、担任と補佐の先生以外は面識のない先生に変わってしまった。今年の荒れ具合ももしかしたらここに原因があったのかもしれないが……。
私『じゃあ、もしかして、お父さんにも“<私はいいこ!”って分からせようと、頑張っちゃってない?』
娘『…………はっ!』
推理サスペンスの佳境で、犯人の糸口を見つけたような、およそ5歳児とは思えない反応を見せた。
どうやら私の推理は当たっていたようだ。
私『一度仲良くなった相手には、もう頑張らなくてもいいし、頑張ると変なことになっちゃうよね?』
娘『うん』
私『だから仲良くしようとしたり、“私はいいこ!”って分からせようとするのは、知らない人に頑張ることで、仲いい人にはやらなくていいんだと思わない?』
娘『うん』
私『あいさつとか、“いいこ”って思わせるのは、知らない人を自分に近づけるためにするんだよね』
娘『うん、やさしくしてもらう。あと、なかよくなる』
私『でも、家族はずっと一緒だから、最初っから頑張らなくてよかったんじゃない? お父さんにすぐにあいさつするの止めたら、君が楽になったように』
娘『…………はっ!』
思わず吹き出しそうになった。娘はもう視線を外しておらず、こちらに顔を向け、次の言葉を待っているようだった。
私『家族は最初っから一緒にいるから、放っておいても仲良くなるんだよ。無理に考えたりしなければね』
娘『…………』
私『家族は一緒にいるだけでいい
娘『………………………………かぞくはいっしょにいるだけでいい』
言葉を反芻した娘の顔が、私の目の前で変化した。どこがとは言えないが、急に大人っぽい落ち着いた表情というか、演技がかったあどけなさが消えたというか……。今、目の前で仮面を捨てたのかもしれない。
私『分かりやすい?』
娘『わかりやすい』
私『だから君は、お父さんがいてもお母さんがいても【なにもしなくていい】んだよ』
娘『はぁーーー……』
肩を大きく動かして娘はため息をついた。
そこには私の知らない、落ち着いていて、大人びていて、すっと人の目を見るような黒く深い瞳の少女が立っていた。思わず目をこすりたくなるような雰囲気の変化だった。
仮面を外すだけで、これだけの変化を遂げるというのなら、彼女は一体どれだけの仮面を私に対してかぶってきていたというのだろう?
今度はむしろ私が娘との距離感の見極めに戸惑っていた。しかし、長いこと私たち親子の間に立ち込めていた霧が、たった今、晴れたという実感を噛み締めてもいた。

完全なる逆転

娘との会話を終えたその瞬間から、今までが嘘のように彼女の態度が変わった……いや、正常化したと言うべきか?
私が急に現れても、【気づいた様子】はあっても【意識をしている様子】がない。わずかに顔をこちらに動かした後、リラックスしたまま本を読んだり、絵を描いたりしている。時折、話しかけたいことや質問があると、特に表情をうかがう様子もなく、私のもとへとやって来る。
───静かだった。
いや、今までも娘はパニックや過剰な意識から黙りこんでいたのだから静かではあったはずなのだが、刺さるような意識が向けられていないだけで、一気に雑音がカットされたような静かな部屋が広がっていた。これが普通の家庭の姿。今まで私が背負ってきた余計なものの重さをその時ハッキリと実感した。
しかし、その横で私への意識にカチコチになる長男の姿。彼は未だに年末の湯屋での失敗を引きずっていた。そして娘と私の関係の変化に、明らかに戸惑っていたのだった。それは長男だけでなく、妻も同じことで突如娘が正常化したことで戸惑い、自分の立ち位置が分からずに表情をこわばらせていた。
次男も兄と母の変化を空気で察知し、私に何度も何度も確かめるように質問攻めを仕掛けてきたり、抱きついてきたりしていた。
今、正常な心持ちでいるのは、娘ただひとりなのかもしれない。
ここまでの娘とのやり取りには多くのヒントが隠されていた。初めて私の実感を伴った対処が、その効果を発揮しつつある。ここに来るまでに施した策は数え切れない、しかし、それらを踏み台に娘の発達が合わさって今回の一歩につながった。
私は間違っていなかった──────!
小さな自信を取り戻すとともに、次の目標を定めた。わが家の遅れは数年分に及ぶのだから。
次は長男か……。
ひとり安寧の中にいる娘を眺めながら、私はつぶやいた。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~万物の霊長~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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