ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~万物の霊長~

2014-06-07 Category:軽度アスペ・ACな妻

バランスを失う

食を絶ってから22日目。
状況は非常におかしなことになっていた。私がリビングに居る間、長男が真っ青になるほどの緊張をみせ、私が動くだけでも自分の姿勢を正したり、自分の動作を確認するようにひとりごとをつぶやいたりする。
チックともとれる行動が現れ、またその行為が始まると自分の行動に意識が集中してしまい、ガチガチに硬直していく。
その長男の様子に、妻は【何かしなくては・何か言わなくては】と考えこみ、それはタイミングを逃す度に【また、動けなかった】と自分を責めて身動きがとれなくなっていく。次男は妻と長男の行動に感化され、私に対して【お伺いを立てる】様な行動ばかりになり、結局考えきれずに緊張状態を作ってしまう。
3人が自分の意識にとらわれて、我を失っている中、娘はマイペースに絵を描いていたり、本を読んだりしていた。今までも安定する時期は年間を通して1~2ヶ月分くらいはあったが、その時の様子とも違い、たまたま上機嫌などといったあやふやなものではなく、崩れる要素を感じさせない余分を削ぎ落したような安定だった。
……完全なる逆転。特に長男は私と娘の関係性に、変化が生じたことを敏感に察知し、こちらの様子を非常に気にしているのが分かった。【父と妹の関係への嫉妬・焦り】単純にそういった子どもらしい感情なのかと言えば、その観察する目はどこか動物的だ。それは、どこかで見たことのある眼だったが、どうしても思い出せない。
現状を見るだに、今、台風の目となっているのは長男である。娘が初めて【適切な家族同志の距離】を獲得し、今までが嘘のようにリラックス状態をみせるようになったものの、これでは役者が交代しただけ。それどころか、今まで安定していた長男が、修復困難な緊張状態に沈み込む様子に、妻までもがパニックを起こしている。状況的には悪化した事と同じだ……。
パニックを起こした妻は、ふだんであれば“目の前の問題を解決するための具体策”を伝え、動いてもらうことで状況を把握し我に返ることが多い。しかし、今、何かシンプルに解決できる問題など、そこには存在していない。それほど長男の自閉的な反応が強かったのだ。
ひとつ越えればまた問題が現れ、それを越えればまた問題が生まれる。
場当たり的な計画のために、それ以上の発展が見込めなくなってしまった都市のように、わが家にはまた違った薄暗さが迫ってきていた。

再現ループ

やがて長男は完全にフリーズするようになってしまった。そのプロセスは、以前の娘と全く同じパターンを、超短時間で繰り返し続けたことが原因。
それまでリラックスしていたにも関わらず、私が現れることで瞬間的に【何かしなくちゃ】と考え、上手く答えが出ないために焦り出す。その焦りはほぼ確実に彼の心を支配し、何に対して焦っていたのかも見失いながら、焦燥感だけが大きく膨らみ続けていく。
どうしようもできない絶望感にまで膨らむと、彼は考えることをあきらめ、むしろやらないように気を張っていたことが頭にいっぱいになっている状態で自分を開放してしまう。
わざと怒らせて、終わりをむかえるパターン
本人にはそれほど短絡的な考えがあるわけではなく、頭を満たした刺激の強い思考を、再現するように突き動かされているだけである。そして、やらかしている自分に気がつくも、自責の念と失敗した恐怖感にとらわれ、そこから身動きが取れないまま繰り返そうとしてしまう。
娘の場合はこれを3歳の頃からつい一昨日辺りまで繰り返し続けていた。
それと比べ、今まで長男はそれでも話をすれば聞き入れようとする姿勢が見られていたし、完全に理解できていなくてもひとまず従って答えを見つける柔軟さがあった。今は全くそれも見られない。
娘の場合はこういう時、理解できない事へのパニックが少しと、【理解できない=相手が間違っている】と思い込もうとする姿勢や、【都合の悪いことは耳に入れたくない】といった考えから拒絶していた。
おそらく今、長男の心の中にあるのは【どうしても意識してしまう】【どうしても心配になってしまう】といった、とらわれている思考への完全降伏であろう。同時にそれが【自分が分からない・理解できない】【今、自分が何をしているのか分からない】といった、離人を助長させるような渦を作り出している。
では、こういう時、私は娘にどうしたのか?

 

私『いつまでそうしているつもりだッ!』
長男『…………!!』
倫理のテクニックもへったくれもない、愚かで泥臭く、二次障害の引き金にもなりかねない行為。同時に自身も疲弊する諸刃の方法。
【とらわれている問題を凌駕する強い刺激】を与えることしかなかった。
わが家の上ふたりの場合、感情的なパニックやフリーズというだけでなく、言葉や理論でのループに縛られることがある。こうなると安静も抱きしめも声がけも、何の効果ももたらさず、放っておけば何日でも何週間でも、その思考を延々と繰り返し続けてしまう。この間はふつうに話しかけたのでは、【耳には入っても、実感がない】ために、かたっぱしから聞き流されてしまうからだ。
ようやく長男の瞳に光が戻る。
こういう時に真顔を見て硬直する特性を発揮されては、話が一向に進まなくなる。余計な緊張を起こさせないよう、すぐに視線を下に向けさせた。
私『また、お風呂屋さんでのこと、思い出してたんじゃないのか?』
長男『……うん』
私『もう止めてくれって言ったじゃないか』
長男『……どうしても……どうしても考えちゃう』
私『それやると、やっと普通になった娘も、次男も一緒になって怖がっちゃうんだよ』
長男『わがっでる……でも、ぼく、どうしても考えちゃう……』
ここでもう『怒ってないから安心して』と言っても効果はない。もう何十回となく言い続けてきたからだ。あまり繰り返すと、彼にとっては言葉は【音】になってしまい、なんの意味ももたらさない。
……このどうしようもなくそこから逃れられない感じは、根本的になにか彼の考え方にズレがあるはず。
直接的なアプローチが望めない。これ以上は時間の無駄だし、事態を悪化させるだろう。しかし、何も答えを授けないとなれば、今の彼は余計に不安にかられてしまう。私はとりあえず、当たり障りなく無難な時間稼ぎを仕掛けることにした。
私『わかった。これはあの娘がお父さんのことを考え過ぎずに済むようにできた、魔法の方法なんだが聞きたいか?』
長男『……! なにそれ』
基本ファンタジーな彼は(早咲きの中二病とも言う)魔法という言葉に反応を示した。
私は彼に娘の打開策につながった物を彼向きにややアレンジして、
すぐに挨拶しようとしたり、顔を見ようとしないで、落ち着いた時を待つ
を伝え、もう一度対策を練り直すことにした。

夜の散歩

娘の脱皮、長男の沈殿、妻の混乱。間に挟まれいらぬパニックを背負い込んだのは、他でもない定型で空気読みに長けた次男だ。
次男の場合はまだ3歳にも関わらず、話し合いで感情を抑えながら、自分の気持ちに気がつけるほどのスキルが備わっている。これはわが家の中では非常に心癒される部分であり、同時にその物分かりの良さに若干の不安を生むことでもある。
彼の場合は私に対して、緊張を生んでしまっても、抱きしめるだけで分かってくれる。私は彼への申し訳無さから、定期的にマンツーマンのスペシャルタイムを設けることにしていた。例えばこの時、私は次男に小型のLEDライトを持たせ、夜の散歩に出かけていた。
ちょっと怖がりで暗闇が苦手な彼も、ライトを持っていると所々でダイナミックな影絵をして遊んだり、夜の動植物を照らしては見入っていた。
次男『おにいちゃんは? おにいちゃんはおさんぽないの?』
大きな田んぼの間の農道で、やおら次男は私におしりを向けて前屈し、自分の股の間から顔をのぞかせながらそう言った。
私『……ぶっ! すごい聞き方だね! なんかの動物みたいだよ』
次男『えへへぇ、どうぶつ、どうぶつ? にんげんもどうぶつなの?』
私『そうだよ~、人間も動物だよ。おサルさんのお友達だよ』
次男『ぼく、おさるさんすきぃ、おさるさんみたい。おさるさんどこにいる?』
私『おサルさんは動物園にいるよ。この辺も寒くなるとでるけどね~』
次男『ええ~! みたい~』
私『お家に帰ればおサルさん3人もいるよ! 人間もおサルさんの仲間なんだから、お兄ちゃんたちもおサルさんだよ』
次男『おにいちゃんおさるさん! おさるさん!』
私『はははは、おまえもな~! そしておれもな~!』
次男がライトを振り回しながらはしゃいでいる。
私はふと立ち止まっていた。
私『………ああ、そういうことか』
私は長男のあの“どこかで見た眼”がなんだったのかを思い出していた。

万物の霊長

翌日、長男を私の仕事部屋に呼び、娘の時と同じく横並びに座わらせた。長男の目はやや泳いではいるものの、まだ硬直とまではいっていない。ただし、これは最初の印象で心をつかまないと、途中でループに入られる危険性もある不安定な状態だ。
まずは目線を逸らさせ、駄菓子のフーセンガムをひとつ与え、噛みながら話を聞かせた。一定リズムの運動で、意識をこちらにつないでおき、少しでも冷静に聞いていられる時間を延ばすためだ。
私『あれから、すぐにあいさつしないのと、お父さんの顔を見ないのは続けてるね?』
長男『うん。ぼく、できてる』
確かに長男は私との約束は続けている。ただ、意識をしなくなったとは到底いえない。ふだんも長男は、この意識がふつうの子に比べてやや強く、それが体調不良や疲れ、精神状態に左右されて支配されたりしている。
つまり、今まで安定していても、それは表面化していなかったに過ぎない。本当はいつでも彼はこうなる要素はあったということだ。
私『……そうだね。君はできているよ。でも、まだお父さんがいると、お父さんに【どうしよう】とか【これでいいのかな】とか考えちゃってるでしょ?』
長男『…………うん』
にわかに長男の表情が曇りだす。頬骨のあたりは白く、目の周りは赤く。こういうパニック寸前の時の顔色の変化は本当に妻に似ている。
私『で、だ。ここまで君がお父さんとの約束を守って、あいさつを急がないトレーニングをやったからこその、次の段階の魔法があるのだが、知りたいかね?』
長男『えっ! なにそれすごい、まだあるの!』
私『お、おお。いい引きだね。そのリアクションは点数高いぞ』
最初の印象操作は成功。
後はどれだけ【わからない】と立ち止まらせずに話を続けられるかが勝負になる。
私『人間が昔、おサルさんだったのは知ってるね?』
長男『うん。ここにしっぽがあるもんね』
私が自分の尾てい骨を指しながら言うと、彼も自分の尾てい骨を指さしながら嬉しそうに答えた。動けるということは硬直するほどの緊張はないということ。逆に言えば自分と同様のジェスチャーを取らせることで、気持ちの距離感が近いと感じさせることも望める。
すでに長男は自ら私に視線をあわせ、にこにこしている。導入は完璧。私は本題に入ることにした。ここでつまづいているのであれば、何度でも仕切りなおすつもりであった。
私『人間が脳みそで物を考えてるのも知ってるよね? その脳みそはね、実はトカゲだった時の脳みそと、おサルさんだった時の脳みそが残ってて、その上に人間専用の凄い脳みそがくっついてるだけなんだ』
紙に横顔のシルエットを描き、小脳・間脳、そして覆うように大脳を描いた。
長男『そうだったんだ! じゃあトカゲの頃の思い出はあるの?』
私『ははは、それはないよ。人間として生まれてきたから、トカゲだった頃はないでしょ? でも、脳はトカゲ用のも残ってるんだよ』
長男『うん、そうだね。ぼく人間の赤ちゃんだったもんね』
私『でも、思い出はないけど、最初からついてるルールは憶えてるはずだよ? 高い所が怖いとか、火は熱いから危ないとか、暗いのが怖いとか、教えてもらったことがないのに最初から知ってるよね』
長男『……! そうかも!』
私『でね、実はもうひとつ大きなことを憶えてるんだな。人間は』
長男『なにそれ』
私『おサルさんの頃の記憶。お父さんやお母さんにいっぱいご飯もらえるようにする知恵だよ。
おサルさんは人間ほど強くないから、強い子を残すために他の兄弟とエサの取り合いをさせるんだ。だからおサルさんも生まれた頃から兄弟と争って、お父さんお母さんの近くにいようとしたり、可愛がられようと必死になる。』
長男『可愛がられないとどうなるの……?』
私『ご飯をいっぱいもらえないから、体が小さくて弱くなる。そのうち群れからもいなくなる』
長男『かわいそう……』
私『でも仕方がない。おサルさんはそうしないと生きていけないから。で、その記憶がお父さんにも君にも残ってる』
長男『お父さんとお母さんに可愛がられようとすること?』
私『そう。だから君はお父さんが来ると、【なんか遊んでもらおう】とか【なんか声かけなきゃ】って思っちゃうんだけど、心当たりない?』
……我ながら白々しい質問だが、答えは分かっている。
長男『うん! そうだ! 本当にそのとおりだ!』
妻にも共通していることだが、彼らは自分の感覚に説明がつく瞬間、非常にスッキリとした表情になり、今までのモヤモヤが何だったのかというほどの成長を見せることがある。私は長男の反応を確認し、ここで一気に畳み掛けることにした。
私『君はおサルさんの頃の記憶はないけど、おサルさんのルールは残ってるから、焦っちゃう。でも、その焦っちゃう気持ちがなんなのか、おサルさんじゃないから分からないんだよ。どんなに考えようとしても、おサルさんの言葉はウッキィとしかわからないでしょ?』
長男『あははは、本当だねぇわからないね』
私『だから最初からその気持ちを考えても意味が無いんだよ。だってぼくらは人間だよ? 人間の親は子どもから近づいたり可愛がられようとしなくたって、ちゃんとご飯を作るし、しっかり守ろうとするもの』
長男『……うん。いつもご飯つくってくれる』
実感のある答えが用意された話を聞かせ、彼にそれが正しいものであると半ば強引に導いた後、私は最後の仕上げに入った。
私『だからね、今度からお父さんが来た時に、何か考えそうになったら、それは【ぼくがおサルさんだった頃の気持ちなんだ】って思いだしてごらん。で、【ああ、おサルの気持ちは分かるわけがない】っていうのも思い出すんだよ。
君がお風呂屋さんでのことを気にしすぎたのは、おサルさんの気持ちから、【ヤバイ、父ちゃん怒らせた! エサがもらえない!】って、おサル脳が怖がったからじゃない? だから人間の君はその言葉も気持ちも分からなくて、ただただ不安になってただけだよ』
長男『……はぁ~。そうだったんだねぇ』
これでもう大丈夫だろう。
いつの間にか声のトーンも変わっていたし、どこか話の通じていないような、間に一層霧が立ち込めているような感覚は消えていた。
万物の霊長
────全ての者のなかで最も優れたもの、すなわち人間。
時折こんな思い上がったような表現が使われるが、結局は認知の数が多いことと、処理能力が高いこと。上位互換な脳を持った生き物でしかないのではないのかと思う事がある。
ただし、我々の持つ言葉の力は凄い。
一つの生物が何百年も掛けて遺伝子で環境対応していく作業を、人間はたったひとつの言葉で認知を増やし、対策を講じ、そのグループ全体の生き方すら変えることがある。
もしかしたら、人間はひとつの人生で何度でも言葉によって生まれ変わり、進化をしているのかもしれない。
自分の子を残して伝えていかなくても、もしかしたらあらゆる生物が遺伝子を残して種を紡ぐように、人間は認知の詰まった言葉を伝えていくことで種に自分を残していけるのかもしれない。
長男のために考えたこの【おサルの記憶】という喩え話も、もしかしたらただ長男を助けたいという気持ちだけではなく、私の認知というものを、この人間界に残す行為だったのではないだろうか。
困っているであろう他人を、なんとかしてあげたいと考えるのも、こうした種への貢献があるのかもしれない。
想像以上に効果を発揮し、通常運転に戻る長男の姿を眺めていて、
この時、ふっとそんなことを考えた。
絶食から25日。ようやく稚拙な私の反抗も終わりを告げようとしていた。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~母不足と娘不足~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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