ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~二段の認知~

2014-06-20 Category:軽度アスペ・ACな妻

あふれるメモ書き

妻が生活に対してハングアップしてしまう背景に、スケジュールや問題など、気にかかることがモヤモヤと存在していて、それがメモリを無駄に食っていることはもう明確であった。
今までの事を思い返してみても、妻がフリーズしたり出した手を引っ込めるような消極的な生活になっていった時は、いくつかのことを同時並行で考えるような環境の変化に直面していた時だ。
生活が安定してきたにも関わらず、ママ友の人生相談にメモリを食われた彼女の脆さを知ってから、わが家の至る所にメモ書きが増えていった。
内容は【子どもの口調がねちっこくなったら構って欲しくて気を引こうとしている時】とか、【ちょっと考えても答えが出ない時の“言うほどのことでもない”は禁止】など、つい目の前の出来事に気を奪われると忘れてしまいがちな言葉の数々。
小学校や保育所からのお便りは、リビングに設置したB1サイズの大きなコルクボードに掲示し、それらの横にも“陥りやすいであろう状態”のメモ書きを残していった。
ふとキッチンのカウンターの上の紙切れを捨てようとすると、それは妻の心のメモ書きで、捨てるに捨てられず、脇に追いやって溜まっていく……。
さながら冬の到来に備えて、木の実をいたるところに埋めていくリスのように、それらの彼女の小さな決意の数々は、忘れられながら増えていった。
私『ちょ…っ(笑) これはどうすんの? とって置く?』
妻『……んー、ああ、この辺はもういい』
娘が安定を迎えてから一時期、今度は次男のイヤイヤ期というか、とにかく親の気を引いておこうとばかりする時期が到来したが、その度に妻はこうして対処をメモにしてどこかしらに仕込み、目的意識を具体的に文字に変換していった。
実は妻は上ふたりのワガママや問題行動、執拗な構ってちゃん行動よりも、次男からの気を引くための行動の方が苦手である。
上ふたりの場合は目的や方法論が、一つの視点や方向でバリエーションが少ないが、次男はさらに親の表情の変化に合わせて、その要求をずらしていくなどの交渉に持ち込むのだ。妻はこういった次男の前後関係を踏まえた、多層的な掛け合いに反応しきれず、気がつけば『叱りどころ』をずらされ延々と反応を返し続けているなどの状態によく陥っていた。
しかし、これらのメモ書き作戦が功を奏し、妻はそういった状況になった時、目の前の要求だけにとらわれず、次男が何を意図しているかを見失わずに観察するための意識を保っていられる。
着実な進歩。なによりも大きな進歩は、彼女自身が気がつけていなかった、自分の苦手パターンに認識を持てるようになったことである。意味なく不安にかられるような、暗中模索にメモリを奪われるパターンが激減していった。

諸刃の剣

一週間のうちにも存在していた妻の浮き沈みが、いつの間にかほとんど見られなくなっていた。それを本人に告げると、本人は顔をゆるめ切って喜んでいた。
妻『へへへぇ……そうなんだよ。最近疲れないの』
私『自覚ないだけで、それだけたくさんの事に頭をもんやり悩まし続けてたってことかね?』
妻『うー…ん。そんな感じだと思う。でも、今はあんまりやることが少ないから余裕があるだけで、イベントとか混んできたらどうなるか……ちょっと不安かも』
非常に冷静に自分の事も分析できているようだった。確かに彼女の場合、多くのスケジュールに囲まれれば、ひとつひとつに少しずつメモリを奪われていき、やがてハングアップするだろう。
果たしてそれは、その通りになってしまった────。
長男の小学校のイベント、娘と次男の遠足、地域のイベントなどが一気に集中する時期が訪れると、妻は表情が硬く・口数が少なく・表面的な思考になり・体力が低下していった。
ハングアップして3日、仕事にも遅れが出始め、私に助けを求める様子もないので彼女を呼び出した。表情は硬く険しく、肌は土気色でまぶたと眉間にうっすらとシワが寄っている。
妻『………………………なに?』
私『今、なにか困ってるものない?』
妻『………べつに………』
私『いや、それは嘘でしょ? いつもなら10分くらいの仕事、もう1日かかってるけど?』
妻『………ごめん』
私『うーん、怒ってるわけじゃないから冷静に話を聞いてね。後、目は見ないでいいから』
妻『うん………』
私『スケジュール以外にも、何か気になることでもあるの?』
一瞬妻の視線がやや上に向いた後、目を閉じながらうつむき、一気に顔を紅潮させた。
妻『……うん、うん。ごめんねぇ…グスっ! やっぱり私ダメだったぁ……』
私『ああ、ごめん、泣くのは後にして。今は冷静に話をしたいところなんだけど、無理だよね?』
妻『……う゛ん。無゛理゛ぃ………。私またやっちゃってた……』
大きめの紙をテーブルに置き、ペンを妻にもたせると、なるべく無感情に指示を伝えた。
私『ここに“存在するスケジュール”と“用意するもの”と“助けて欲しいこと”を書いて』
妻『ううっ………………………カリカリ』
またも妻は2行目を書き始める頃に、平静さを取り戻し素早くスケジュールや必要事項を書き込んでいく。
妻『─────はぁ~……。おかしいなぁ』
私『なにが?』
妻『本当はね、何度もパニックになりかけた時に文章にしてメモってたの。だけど全然頭の中ではっきりしなくて、それがまた焦る気持ちになってたんだよね』
……なるほど。
彼女はここ最近の上手く言っていた方法を正確に取り入れてはいた。しかし、それが効果を出さなかったことでより不安を煽り、逆効果になっていたということである。

二段の認知

例えば人は、何か新しいことを憶えようとしている時、それを紙に書いたり読み上げたりすることで、一時的な記憶にしている。それは意外とすぐに憶えられる様なものでも、時間が経てばすぐに薄れてしまい、思い出すことができなくなってしまう。
ここでそれを繰り返し、それをすることが日常になるまで続けると、常識として頭に強く残り、長く残り続ける記憶になる。
最初は軽くて消えやすい短期記憶で、繰り返せば忘れない長期記憶になるわけだが、その短期記憶に入る前の段階に『ワーキングメモリ』と呼ばれる、記憶にすらなる前の認識するために把握している段階がある。
簡単に言えば、
『なんかあるなぁ』とそこにあるものを把握した後、『ああそうか』と吟味した事が、『こういうものなのだ』と三段階を踏んで大事な記憶が最奥の本棚にしまわれているわけである。
しかし、妻の場合はどうやら『なんかあるなぁ』と把握した後、ほとんどの吟味をせずに『こういうものなのだ』として、深い所に仕舞いこんでいるように思える。この例えは彼女自身も合点がいく所があるらしく、納得していたので間違いないだろう。
つまり『ああそうか』と思えるまでの吟味が極端に少ないか、もしくはこの過程を毎度スキップしているのではないかということである。これはパッと見たものが現実の全てになってしまう、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の表層的な思考特性に大きく関連する機構ではないだろうか。いわば二段の認知といえる状態なのだ。

厄介なのはこの最初の段階の『ああそうか』が、吟味されていないためにそのまま常識になってしまったり、理解した気になってしまう危険性があるということ。

今回の件で言えば、すでに“イベントとか混んできたらどうなるか……ちょっと不安かも”と予測していた妻が、メモ書きで対策をとっていたにも関わらず、結局パニックに陥っていたが、そのメモ書き対策の方法に何かしら大事な吟味がかけていたのではないのかと思えた。

サブ脳の必要性

今まで蓄積された、あふれかえるような妻のメモ書きを見返すとどれも一文が長い。そしてかなり高度な心構えにまで及んでいたりする。
私『こういうの、分かってて書いてるの?』
妻『……うん。その時はわかってるんだけどね。でもいざとなると思い出せない。ダメだよね』
この言葉を聞いた時、私はすぐに娘の言動を思い出していた。今まで、娘からも似たような台詞を、何度となく聞いてきたのだ。彼女は【知っている(見た聞いた程度)】と【分かっている】の垣根が非常に曖昧で、聞いたことがあるものなら理解できていると勘違いをしていたため、現実で上手くいかずパニックに陥っていた時期がある。
その【知っている(見た聞いた程度)】と【分かっている】の曖昧さは、時に“0か100か”などの両極思考と合わさり、
【知っている(見た聞いた程度)】=肯定的・好意的
【知らない】=否定的・不安・敵対
娘の場合はこれらの極端な視点での捉え方になることが多い。
妻にも同じ様な感覚があるのではないかと思い浮かべた。
私『あのね、思うことをメモに書いていけってやったのは、“忘れないため”だけじゃないんだよ』
妻『え?』
私『おそらく君は聞いたり思い出したりして“ああ”と思った途端に、すぐに長く記憶できる所に放り込んじゃってるんじゃないかな? きっと長男も娘もそんな感じで、だから憶えているものの方向性とか意味合いが薄かったり、統一感が無かったりするけど、おっそろしくどうでもいいことを完璧に近い感じで憶えていることが多いでしょ?』
妻『あー……そうかもしれない。しまいこんじゃってるから思い出せないんだけど、思い出せって言われたらちゃんと思い出せるの。なんで思い出せるほど憶えてるのに、動けないんだろうって思ったことがたくさんあるよ』
私『それはさ、パッとその言葉とかに気がついた後、すぐに覚えちゃってるから、その意味とか意図とかを自分の考え方と比べたり、吸収しようとする時間がないってことじゃない?』
妻『………と、言いますと?』
私『脳には見た時にパッと認識してかなり短時間だけ憶えておく、ワーキングメモリってメモ機能があるらしいんだけど、定型の人はこれの容量が大きくて、複数同時に認識してたりするんだけど、ちゃんとした記憶に持ち込むには、これを何度も反芻したりしないと自由に引き出せるようにはならないんだよ。
だから定型は複数の事を認識しながら、でも本気で憶える時は反芻して吟味して、“自分のもの”にしながら、目次とか索引をしっかり作って憶えている感じ。だから適宜引き出せる。
対して自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の場合は、このワーキングメモリが小さくて、複数同時には認識していられない。だけど、憶えようとなると結構深い長期記憶のところまですぐに持っていけるんじゃないかな?
だから特定のことはもちろん、意味合いや憶えておくべき必要性の低いことまでバッチリ憶えていられるけど、目次みたいな索引化が出来るほど吟味できていないから、どこの本棚かは適宜引き出すのが苦手。
……どうだろう?』
妻『………うん。そんな感じだと思う。とりあえず頭に入ってるだけだから思い出せないのか』
私『おそらくね。だからメモを取るっていうのは、君にとっては忘れないためなんじゃなくて、ちゃんとした索引つきの記憶になるように、一度文字に表現し直して自分の言葉にするためのものだと考えればいいんじゃないかな?』
妻『あっ、吟味をメモする時にしろってこと?』
私『そうそう、多分そうやって自分の気持ちとかもメモっていったら、君が知ってる気持ちを表す言葉と、実際の君の気持ちとは違っているかもしれないよね。なんたって吟味してないんだから』
妻『………実はそういうこと、たまにある。なんとなく表す言葉と本心が違うんだけど、他の言葉が浮かばないからいいやって……』
私『うん。七面倒で小難しい話が多いけど、結局認知の違いってそういうところのズレからも起きてて、それは吟味のしかたを工夫すれば、意外とかんたんに対応策が見つかっていくものなんじゃないかと思うんだよ』
頭に一度認識されたものを、メモ帳に移して吟味し、自分と結びつけてから記憶する。
定型が脳の特性の違いから当たり前にやっているその一連の行動を、擬似的に文字で起こしていく作業。脳内とは違い、書かれた文字はあやふやに変化をしていくことはないので、基準を見失うこともない。
また、あいまいにぼやけやすい頭の中だけで、不安のつきまとう複数のものを考えるのは非常に難しいが、そこに浮かぶ気持ちや自分がとりたくなる衝動を文字に起こせば、それは自らの感情をも吟味していることになるのではないか?
いわばサブ脳として活用する考え方である。
認知行動療法にはこういった、自分の気持ちを書き出していくことによって、自分の認知のズレや本当の気持ちを見つけ出す方法がある。この時もこの対処をどういった意図でやっているかを、理解しているかいないかでは大きな違いが出るように思える。

儚さ

翌日、妻は文房具売場で手のひらサイズの小さなノートと、小さなボールペン、そして首から下げる為のリードとクリップを購入した。
ノートをいつでも首から下げ、普段はクリップで服に付けておくことで邪魔にならないようにするためだ。
最初はスマホのメモ昨日や調度良いアプリを考えたが、妻は【手で文字を書いているのを感じながらの方が、もっとそこに気持ちを向けられる】と考えたのだ。そして彼女はこうも考えていた。
どこにあるかわからないメモ書きより、いつも自分の続きが分かるノートがいい
今も妻がいる場所には小さなノートがあり、そこに彼女が綴られていっている。
このノートは彼女が今揺れ、立ち止まり、歩み出す全ての記録とも言える。
私はふと、妻の吟味はノートに残されるが、自分の吟味は脳細胞の宇宙のどこかへと消えていくことを想い、一抹の寂しさを感じることがある。
同時にその寂しさや儚さがあるから、今を生きているのだと実感してもいる。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~気まずい沈黙~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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