ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~気まずい沈黙~

2014-06-27 Category:軽度アスペ・ACな妻

儀式の失敗

その日わが家はちょっとしたお楽しみの日だった。
きっかけは次男が保育所から持って帰ってきた、イベントの告知チラシ。
かつて長男が私との距離を理解するにいたった、あの恐竜のイベントがまた開かれるという。
次男はもちろん、長男も大乗り気。娘も妻も安定してから、まだ一度も遠出をしていなかったので、思い切って行ってみることにした。
片道2時間、途中大きな河でお弁当休憩をし、現地に向かう予定。
やや妻は力み過ぎな様子が見られたが、めずらしく運転も買って出たので、彼女に任せるつもりで出発することにした。いつもは遠出の場合、基本的には私がハンドルを握っているのだが、今回は妻が……
この設定変更もよくなかったのかもしれない。
妻はいつもの車で出かける時の儀式【3つの約束】を忘れてしまった。
わが家では必ず車で出かける時に行う儀式がある。
それは分かっているとしても必ず繰り返す3つの声掛け確認。
・車の中では“3の声”
・車の中では勝とうとしない
・シートベルトは絶対にちゃんとつける
3の声”とは普段よりちょっと抑えめなボリュームの声のこと。彼らはなぜかクルマに乗ると大声になり、そこから大騒ぎになってしまい現地まで体力が持たないからだ。恐らく出かける興奮に上乗せし、エンジン音などの騒音に対向するために自然と声が大きくなってしまうのだろう。
勝とうとしない”とは、上ふたりが物心ついた時から繰り返されてきた、車内での意地悪なクイズの掛け合いや、『あっ、あそこ見て○○がいる! ……うっそ~!』などから始まる、意味のない競い合いで、放っておくとどんどん不機嫌になり罵り合いになっていく。これは長男が初めてのバス旅行で友達とそうしていた記憶が強く、どうしても車に乗ると再現しようとしてしまうのを防ぐためだ。一時は娘の癇癪のもとにまでなっていたので禁止事項になっている。
シートベルトは絶対にちゃんとつける”は言うまでもないが、手持ち無沙汰になると何かしら付けたり取ったりと常同的な行動につながり、いつの間にかシートベルトを外してしまうから。
発車して数分でこの【3つの約束】を忘れていたのを思い出し、それを妻に伝えると彼女は一気に深刻な顔になってしまった。
軽いつもりで発した言葉に重く反応されるとこちらも戸惑う。
慌てて責める意図も他意もないことを告げるが、彼女はどこか不安そうな、眉間に薄っすらシワがよる独特な表情になっていた。
時すでに遅し。
後部座席では上ふたりの競い合いと、無駄に大きな声が始まっていた。

急降下

儀式が出来なかったというだけで、こんなにもすぐに戻ってしまうのだろうか……。
もう彼らに注意するのは3度目。彼らは気を抜くと大声になり、競い合いになり、段々と不穏な雰囲気すら出てきている。
私『あのさ、今までのお出かけでは【3つの約束】言い合ったらすぐに止めてくれてたじゃん。そうやって競い合いしてると、また嫌な気分になってきちゃうよ? 声の大きさだってさぁ……』
助手席から振り返って、そこまで言いかけて気がついた。
長男も娘も顔色が白く、眼の焦点が合っていない。
ピンときた。これはやりたくてやってたんじゃない。
ただの再現を繰り返していただけなのだと。そして、過去の悪い失敗を再現した際に起こることと言えば、【父親への異常な意識】である。
一度こうなると、再現が完成するまで、彼らはその行為に執着してしまう。
感性とは“父親に叱られる”こと。これが完了するまで、こちらの顔色をうかがいながら何度でも繰り返すだろう。
表情が固まっているのは、自分の意識にとらわれてフリーズ気味なのもあるが、再現の完了である“叱られる”を意識しているからでもある。儀式を導入して以来2年近く起きなかった現象が、今そこで起きようとしていた。
私『ちょっとさ、運転しているとはいえ、君もさあ……』
妻に協力を仰ごうとするが、彼女の表情も激しい動揺の色が浮かんでいる。
……なぜ? 確かに儀式を忘れたことはポカミスだが、今までだってそんな例外は何度だってあった。しかし、なぜこんなにも妻は硬直し、子供らはおかしくなっているのか?
こうなった妻はちょっとやそっとの言葉では戻れない。
どうしてそうなっているのか、何を思い込んでいるのかを、彼女がハッキリと理解し、思考のループに陥る意味が無いことを自覚しなければならない。これはまだ、彼女が地力で行うのは不可能に近い。
その時、また娘が大声で叫びだしたので再度注意と確認、今度はしっかりと長男と娘それぞれを名指しで呼び、注意事項を思い出させ本人にも確認させた。
……しかし、今度は自責にとらわれた長男は黙りこみ、一気に車内が葬式の様な雰囲気に沈み込んでいったのだった。

無言の妻

とりあえず子どもたちだけでも現実に戻さなければ、さらに妻との相乗効果で収集がつかなくなる。なるべく短期に3人のパニックを解消するには、一番正気に戻りやすい長男から崩していくのが速い。
私『……長男、ちょっといいか?』
再度振り返った時、長男の表情が一瞬戻った。
そしてそれは【まずった】という自責の色に豹変していく。
彼は今、私の表情を見て、自分が何をしようとしていたのかを思い出したようだ。
長男『……………』
私『今、その顔したってことは、自分が今変だったってわかったんだね?』
長男『……うん』
私『お父さんは君を叱るために出かけようとしたんじゃない。ふつうに楽しく遊ぶために出かけようって決めてたんだ』
長男『……うん』
私『【3つの約束】を守ってほしい。それだけでみんな楽しく遊べる。今君たちが約束を破ると、気分が悪くなったり、疲れやすくなってすぐに帰らなきゃ行けないことになる。それは嫌だろ?』
長男『……うん』
私『黙れなんていってない。大声を出さずに、競い合う様なことや勝とうとすることを止めてと言ってる。意味、分かってる?』
長男『……うん』
私『またそうやって沈んで黙るつもりなら、お父さんは今から帰ることにするけど?』
長男『……! えっ、それは嫌だ!』
私『じゃあ、自分を責めたり、怒られることを考えるのを止めて、これから行く場所の話でもしてればいい』
長男『……わかった』
私『あと、妻。この先にコンビニがあったはずだからそこで車止めて』
妻『……えっ! う、うん……』
妻はこの間一言も喋っていない。儀式を忘れたと分かってからずっと無言だ。
とにかく一旦車を止めさせ、妻を車外に降ろした。
私『今、何を考えてる?』
妻『え、ああ、ご、ごめん』
私『ごめんじゃないよ、何を考えてたの? 運転しながら何を考えてたの?』
妻『いや、あ、あの……子どもたちにちゃんと注意しなきゃって……』
私『もういい。運転代わるから、君が子どもたちのこと見てて。で、お出かけなんだからくよくよしてないで黙りこむのやめて』
妻『わ、わかった。ごめんね……』
私『だからごめんとかいらない。失敗はここで終わり。クヨクヨやめて。子どもたちの様子見てるだけでいいから。後、黙りこんでもかえって辛くなるんだから、話したいことがあったらちゃんと話しかけてね?』
妻『……うん』
しかし、そこから妻は沈黙し続けた。

サイレントパニック

お昼休憩に着くまでの間に、長男は少しずつ口数が戻り、それに影響されて娘も安定を取り戻していた。
助手席の妻からはムンムンと『何か話しかけなきゃ』のオーラが漂っている。
結局、運転を代わってから40分の間に妻が自分から口を開いたのは、
『あの看板……あったっけねぇ……』
『あの車……、すごく左によってるよ……ね』
それくらい。
こちらから話しかけても、たどたどしく返すばかりで一言二言で会話が終わってしまう。
もう妻の表情は罪悪感で、今にも溺れそうなほど青白く揺らいでいた。
河辺についてお弁当を芝生に広げると、子どもたちは何事もなかったように笑顔を取り戻していたが、妻はやはりどこか私のご機嫌伺いばかりのたどたどしい態度だった。
私『なあ、もういいかげんにしてくれないか?』
妻『……えっ! あ、え?』
私『あのコンビニでクヨクヨするのは終わりって言ったよね? なんでまだそんなにバツが悪そうなの?』
妻『え、あ、いや……そ、そうだよね。変だよね私。うん』
私『なんか気になってることでもあるの?』
妻『え、いや、ないよ? うん、がんばるから
がんばるから】の言葉通り、その後も彼女のアップアップな状態は続いた。
私はもう半ばあきらめ、子どもたちの思い出づくりに専念することに決めて、今日はもう妻に何かを望むことを諦めることにした。
それから30分ほど、ようやく現地に近づいたが大渋滞で、目的地を見ながらトロトロと進み続けていた。子どもたちはもう気持ちが逸っていて、“あと何分”とか“ああ、見えてるのにぃ”と急かす言葉が噴出していた。
しかし、敷地内に入っても駐車場まで渋滞。子どもたちの表情も不穏になってきていたので、私は妻に子どもたちと先に行くように頼んだ。
私『車はなんとか止めておくからさ、もう先に行ってて。歩きながら敷地内を進めば、子供らも落ち着くでしょ? 遊具とかで遊んでればいいし。ついたら電話して』
妻『うん、そうだね。じゃあお願いするね』
しかし、電話が鳴ることはなかった。
彼女は子どもを連れて先に入ってしまい、雰囲気に圧倒されて怯え出した次男の世話に夢中になり、私からの電話も届かなかった。
私は散々探し回った挙句、朝からの心理戦で目眩がしたので車に戻り、妻に電話をかけ続けていた。
その後なんとか連絡が取れ、合流したものの私はもう楽しむ気力など残されていなかった。

気まずい沈黙

イベントの後は遊具でクタクタになるまで遊ばせたので、子どもたちはすぐに眠そうにしていた。ささっとお風呂に入れ、ご飯を作り布団に入らせた。
しかし、妻はまだどこかよそよそしい。
未だに私のご機嫌うかがいとたどたどしいしゃべり方、要らない気遣いばかりで肩の力が抜けていない。
こちらまでつかれるような気まずい沈黙が続いていた。
これでは埒が明かない。彼女自身をはっきりさせなければならない。
リビングのテーブルで隣り合わせに座り、筆記用具を並べた。
私『……じゃあまず、どこからパニック起こしているのかはっきりさせよう』
妻『……へっ?』
私『まず、出発の時の【3つの約束】の儀式が出来なかったね? それについてはまずいと思ってたんでしょ?』
妻『……うん』
私『で、その罪悪感の中、子どもたちへの注意が出来ないことに焦っていたと』
妻『……うん』
私『いや、俺がわからないのは、たったそれだけの罪悪感で、どうして君が黙りこんでいたのかってことなんだよ』
妻『……黙りこんでたってわけじゃあないんだけど………』
私『じゃあなに?』
妻『最初私が運転してたでしょ? あのコンビニに着くまで、前に走ってた車が遅くて、車線変更したいなってずっと思ってたの……』
私『……へっ?』
妻『……へっ?』
私『いや、あの道はよく通るし、そんな状況はいくらでもあるんだからさ、喋れなくなるほどのことはないでしょ?』
妻『うん、なんかそういうのも自分で気がついたら、すごく自分が嫌になって……』
私『……ああ、最初に儀式を忘れた罪悪感があったから揺れてたのね?』
妻『うん、そういう余裕の無さがバカバカしくて……』
もの凄く大きな脱力感に襲われて、私は一瞬地球の重力が2~3倍になったような沈み込みを感じていた。
私『……じゃあコンビニで“運転しながら何を考えてたの?”って聞いた時、君は正解を思い浮かべていたってこと?』
妻『……うん』
私『どうして言わなかったの?』
妻『だって…………』
私『だって?』
妻『子どもの事を注意しなければいけないって話とは違うことだったから』
私『ぬ????????????????』
あまりに意図の離れた返答だったので、私の頭は完全についていけていなかった。
下にうつむいてしまう妻、頭をひねりながら斜め上を仰ぐ私。
私の脳裏で出発の朝のガレージからの早送りが始り、やがてひとつのシーンに辿り着いた。
それは妻が儀式失敗から沈黙を始め、運転を代わるためにコンビニに停まったそのちょっと前、子どもたちに私が注意を始めた時に言いかけた言葉だった。
(『ちょっとさ、運転しているとはいえ、君もさあ……』)
ああ、言った。確かに言った。あれか?
私『もしかして、運転中だけど君も協力してよ的な事を言ったあと、長男に説教を始めたから、話の中心は“子どもたちへの注意”ってことで、君が運転で前の車に困っている事実は、それとは関係ないから言い出せなかったってこと?』
妻『うん………、うん? あれ、これおかしいね?
この時に感じた重力がずっと抜けなかったら、今頃私はスーパーサ○ヤ人にでもなっていたのではないかと思う。
彼女は彼女自身で無言になる切っ掛けを知っていて、それをちょっとした勘違いから言い出すことが出来ず、その自責にとらわれて自縛していったのだ。
そしてその勘違いとは、私へのほんのちょっとした気まずさから、使う必要のない気を使い、認識がずれていったということだ。
あの時、妻が“前にとろい車がいてさぁ……”と一言こぼせていれば、泥沼のような今日一日の疲労も起こらなかったということになる。まさしく“徒労”だ。
私が駐車場で置いて行かれたのも、彼女がパニックを起こしていて、私の出した指示の内、最初の一言【もう先に行ってて】で決定づけられてしまったからだ。確かに妻は複数の意図が存在する話は苦手ではあるが、ふだんはそれほどでもない。顕著になるのはパニックやそもそもの目的を忘れたりした時だ。
妻が揺らぎやすくなっていたのは、彼女自身が最初に力んでしまったこと、そして娘が安定してからの初めての遠出という背景があったからでもあるが……。
要は彼女が抱えた要素が多かったこと、タイミングが悪い方にばっちり合ってしまっただけということでもある。
この時、この出来事はただの【妻の失敗談】となったが、実はこの失敗談こそが妻の弱点に関わる事例であることを、後に私たちは知っていくことになる。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~残り火~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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