ASDでACの妻と
アスペルガーのこども2人を持つ
定型夫の研究帳を公開します。

Category:軽度アスペ・ACな妻

アスペ妻の記録~蛇は誰に憑いた~

2014-06-14 Category:軽度アスペ・ACな妻

まだらの認知

子どもたちの安定。
これは私にとって渇望した状況である。
それは去年末からの追い込みで大きな成果を掴み、今これから失われた時間を取り戻すための、わが家にとって非常に重要な時間になる。浮き沈みの起点がつかめた長男、塞いだ耳を生後五年かけてようやく自由にした娘、子どもとのライブでのやり取りを理解した妻。
わが家のこの3人には、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性のひとつ、どこか関り合いに【放っておいたら進展しない】部分がある。これは他との社会的距離の中から、相手の行動や言動を察知し、自分の中のフィルターを通して意図を掴んだ後にアウトプットするプロセスが薄いことにある。
簡単にいえば【ひとつひとつ、確実に短い言葉にできるように教えなければ分からない】ということ。
そうしなければ苦手意識が膨らみ、その事自体から逃れようとしたり、硬直や癇癪を起こして先送りにしかねない。
現在3人がたどり着いた状況は、その【ひとつひとつ、確実に短い言葉にできるように教えなければ分からない】を実行できる段階の入り口に到達したに過ぎない。それでも、こちらも理解してやれず、彼らにも耳をふさぎ続けられた状況から考えれば、その世界の明るさは全く異なる。
………にも関わらず。入り口にようやく立てたにも関わらず。
妻はまた【心ここにあらず】【まるで他人事のような反応】に逆戻りしていってしまった
しかも今回はかなり深刻な状態で、仕事の手も止まり、子どもへの儀式(お帰りのハグや10秒ルールなど)もおざなり。それどころか、朝私の元に訪れ自発的に子どもたちの様子を報告をする絶対ルールも忘れがちになるようになった。
反応が鈍くなるのはもちろんのこと、夕方にソファに突っ伏してしまう日も、少しずつ増えてきているようだ。
話している時も反応や的確な受け答えはする。しかし、表情が固く、いざ行動に移そうとした段階で手が止まってしまう。やがて彼女はその自分に気がつくと涙し、どうすれば良いかの答えを再認識して落ち着くが、また空虚な状態に陥ってしまう。
本人はなぜ自分が今そうしているのか分からず、いくつかの【こうしなければいけない】と深く意識していることだけには従順に動いているようだった。
まだら状態の正気。まだら状態の覚醒。まだらの認知。
彼女自身がその状態に恐れを抱き、長男の時と同じく【わわわわわわ……】と焦りばかりが増幅しているのが、手に取るように分かる。しかし、なぜそうなったのか、何につまづいたのか、私のも彼女にも分からなかった。

離人症

妻のまだら状態が始まって一週間が過ぎた時、学校に疲れが出たのか、長男の様子がやや硬くなった。
夕方、妻が娘と次男を保育所にお迎えに行っている間、私は彼をデスクの隣に座らせ、困っていることがないのかそれとなく聞き出そうとしていた。
私『今、疲れてる感じとか、体がダルイとかいつもと違うとかある?』
長男『今~? うーん、別に……んん~』
私『完璧に上手く言おうとしなくていいよ。胸がモヤットするとか、頭が痺れてる感じとか、耳がボワンとするとかあるなら聞きたかっただけなんだ』
長男『こう…ね、きゅー…ってなってく感じ』
彼は両手のひらを肩幅くらいに広げ、それを中心に向かってゆっくり寄せていくジェスチャーをしてみせた。
私『体が……小さくなる感じ?』
長男『うん。そう、きゅー……ってなる感じが起きたりする』
私『それはいつも?』
長男『ううん、さっきソファに座ってる時にそうだった。今は……今もちょっとだけ……』
私『今もかぁ。他にもなることがあるのかな?』
長男『……前に、お父さんに“おサルの気持ち”になっちゃてた時にあった』
──離人症だ。
以前、娘の二次障害について疑いを持ち、彼女の証言や状況からこの言葉に辿り着いたことがあった。『自分が小さくなる感じ・自分を後ろから見てる感じ・自分じゃない感じ・望遠鏡を反対から覗いた感じ』といった現実感の剥離を起こす症状で、それは疲労・ストレス・てんかん・不安症・気分障害・統合失調症など、心因性に関わる事に広く見られる症状のことだった。
実はこれは私も幼いころに経験している。3歳の頃、ふと両親が死んだ先の未来を思い、ポロポロと涙をこぼしながら、自分がこの狭い狭いガラス瓶に入っているような、体の後ろに意識があるような感覚に襲われたのが印象的だった。後に新社会人時代、仕事でまいっている時に1~2度、布団の中で将来を思った時に起こったことがある。
そしてこれはおそらく、娘には頻繁に起きていたと思われる。そう言った様子の時は、その時の会話を音として聞いてはいるが認識はしておらず、かなりの時間差(数日から数週間)をもって急にレスポンスが起こることがあった。そういった時に聴きだした、単純にフリーズだけとは思えない、体感覚の症状の訴えからたどりついたものである。
私『……じゃあさ、今、学校で何やってる?』
長男『えっと……マラソン大会の練習と…縄跳び大会の練習と……』
私『ああ、そうか。マラソン大会は君が楽しんでいればいいからね。プロのマラソン選手になるわけじゃないし。
後、縄跳びも同じね。昨日より回数が増えても減っても、それは風が吹いたくらいでコロコロ変わることだし、生きている人間なら当たり前に良い日悪い日があるから楽しむだけでいいよ。
先生もきっとそう思ってる。これは記録の勝負じゃなくて、体を動かす楽しさを知る練習だからね』
長男『ええっ! ……ああ、そうだったね。楽しむだけでいいんだったね』
私『“ええっ!”って事は、また君プロ目指してたんか?』
長男『あははははは』
私『………で、今きゅーってなってる?』
長男『今……? あれ……、ない』
私『ありがとう。とても助かったよ』
長男『ありがとう? ありがとう……? うん、えへへへ』
年末からの流れを越えて、ひとつ分かったのは妻と長男との共通点が非常に多いこと。今、彼から離人症の状態を聞き、その解消を確認したことで、今の妻の状態も理解ができた気がした。

視覚優位と認知

子どもたちを寝かしつけ、リビングの片付けも終わった頃、妻を隣に座らせた。
私『今さ、こんな感じ?』
妻に双眼鏡を渡し、逆さに覗かせた。
妻『……んん? これって?』
私『んー、後は自分が小さくなる感じとか、そこにいない感じとか……なんか自分じゃない感じって言うのかな?』
妻『………! どうして分かるの? やっぱりみんなそうなの?』
やはり、妻も離人症に襲われていたようだ。ハッとしたように目を開き、こちらを覗きこんでくる。
私『それ、離人症って言うんだって。アスペルガーの人にもよくあるみたい。精神症の観点でまとめられているけど、多分これ、心因性の反応だったり、ある種の防衛反応だと思う。俺も小さいころにはあったよ』
妻『んー、ストレスってこと?』
私『君の場合、一概にそうとは言い切れないかもしれない。情報が処理しきれない感覚が、ストレス状態に近くて、離人症を誘発してたりとか? 良くはわからないけど、今、何か気にしてることあるでしょ?』
しかし、長男とは違い、妻は首をかしげたまま考え込み始めた。
私『特に悩みとかもないってこと?』
妻『うん。悩み事はないかなぁ。 なんで?』
私『いや、最近また君の反応が鈍かったり、元気がなくなってるように見えたからね』
彼女の顔が急激に曇りだした。
妻『……! 私、またなんか変だった!?』
私『あ、いや、気にしないで? 元気が無いなって思っててさ。今日ちょうど長男と話をしてて、離人症の症状が彼にも起こっていたみたいだったから』
───彼女の頬を大粒の涙が伝った。
私『ええっ! いや、どうしたの?』
妻『ごめんねぇ、ごめんねぇ、今なんか色々ぐるぐるしててよくわかんないの。わかんないの』
私『色々…? ぐるぐる……? さっき俺が聞いたのはそういうことなんだけど……?』
妻『……へ? だって、保育所の保護者会の事とか、仕事のスケジュールの事とか、長男の運動会の事とかだよ? くだらないことでしょ? そんな事を相談するなんて……』
耳を疑った。いや、今なんて言った? そんな事?
今までこういった相談を無碍に拒否したことがあっただろうか?
私『ちょ……ちょっとまってくれる? そんな事とか言って複数の事が君の頭の中をぐるぐる占領してたんだよね?』
妻『う゛ん……グスッ、お母さんになるんだもん、こんなくだらないことが回せないなんてダメだよねぇ……グスッ』
私『いいから、ちょっと落ち着いて。まず、そういう子どもとか家族に関わる行事はくだらないことじゃないし、“お母さん”になることと、日々の暮らしの相談事は別だろ?』
妻『………はい?』
私『だれがそんな完璧なお母さんになれなんて望んでるの? うちには隠れ姑でもいるんか?』
妻『か、かくれ……ぶふっ、ぶふふふっ……いないよぉ、でも、でもさぁ……ううっ』
私は子どもたちの大判の落書き帳を一枚剥ぎ取り、ペンと共に妻に渡した。
私『今からここに、君が考えていたイベントを日程順に、思いつく限り箇条書して』
妻『うう…でも、でも……』
私『………いいから!』
スマホのストップウォッチアプリを立ち上げながら、妻の表情を観察しようと、書き出す瞬間を眺めていた。
しかし、すぐにそんな時間計測は必要ないと理解した。彼女は2行目から涙が瞬時に止まり、ものすごい速さで文字を羅列していく。
妻『できました』
私『……じゃあ、これは夫の協力が欲しいなってイベントに丸つけて。あ、遠慮とか要らない。これはあくまで練習』
妻『………キュッ、キュキュッ………できました』
最後に私がその表に月ごとの区切り線を入れて妻に渡した。
私『この区切り線から先はその月ごとに考えればいい。いや、忘れてしまえ。
丸を付けてないイベントは君に任せますが、夫婦はふたりそろって夫婦なので、都合のいいほうが出ます。予定は未定です。
赤丸は基本俺が仕切りますので、協力が必要な場合はその都度余裕をもって頼みますのでよろしく』
妻『あ、あ、あー……。え、うん』
私『これで終わりでしょ?』
妻『……う、うん。……ごめんね』
私『あのさ。これは俺が得意な分野。便宜を図るとか、相対的に物事を調整していく感じね』
妻『うん』
私『で、気がついた? 君は書き出し2行で正常な意識を取り戻したことに』
妻『………自分でも驚いてる』
私『君が一週間掛けて悩んだ事は、君がたった1行書くだけで進むことかもしれない』
妻『書く……』
私『それだけで君は自分の足場を理解して、スケジュールを順番にまとめるっていう目標を、素早く完遂させたでしょ?』
妻『う……ん。描いただけだけど』
私『ふつう、一週間もパニックになってた人が、数秒の作業で正常を取り戻して、ほぼ完璧に記憶の中のスケジュールを書くなんて出来ません。少なくとも俺には無理です。それにうちは変わり者夫婦です。できる事と出来ないことは分けて、協力体制で行かなきゃ無理だよ』
彼女にアスペルガーの疑いがあると思っていても、やはりどこかそうではないかもしれないと、私は思っていたのかもしれない。視覚優位の可能性を知ってはいても、進めてみようとは思わなかったし、彼女自身も勉強をしていたので、なにかしらの対策を実行しているのではないかと思っていたからだ。
しかし、妻は今、私の目の前でそれを証明するように、視覚情報から一瞬でスケジュールを把握したのだ。
ふと見ると妻の顔には、日向でお茶でも飲んでいるような、牧歌的な暖かさが戻ってきていた。
この日を境に、私は彼女に自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)としての対処へ、本格的に切り替えていくことになる。

蛇は誰に憑いた

ようやく落ち着きを取り戻した妻。まだ若干の硬さは残っているようだが、それも時間の問題だろう。どれかひとつでも昨夜打ち立てたスケジュールの行程に入れば解消すると思われる。
翌日は非常に心地の良い晴れ間がのぞいたので、私たちは当面の仕事の打ち合わせを、散歩しながら行うことにした。
歩きながらのミーティングは、私たちにとって相性が良い。
視野が広く、一定のリズムの運動とともに織りなす会話は、余計な感情が入らずスッキリとまとまる事が多いのだ。その日も散歩の肯定の半分を過ぎたあたりで決め事は完了。後は雑談をしながら散歩を続けることとなった。内容は目に入る風景や植物の事、子育ての事、お互いにチェックしているニュースガジェットの内容など様々。
その時私はとある漫画の内容について、なんとなく思ってたことを話しだした。
私『でね、この前に読み返した漫画でさ、こういう話があるんだけど……』
こんな話があるの───。
ある村で子どもたちが
蛇、殺して遊んでたの。
ぶつ切りにして、くしに刺して。
そこにたまたま村長さんが通りかかってね。
村長さんそれ見て凄く恐ろしく思ったんだけど、
この時、蛇にたたられたのは誰だとおもう?
───村長さんだったのよ。

【もっけ 第4巻 アフタヌーンKC】

私『……ってな話でさ。なんかこれ、人間でも起こるっていうか、嫌な話を聞いてそれを意識し過ぎると、自分も染まるってことあるよね。………ん? あれ?』
妻は足を止め、何事か考え込んでいるようだった。
そして顔に手を当ててため息をついた。もしや、また泣いているのか?
いや、肩で笑っていた。
妻『……その話で今気がついたよ。私、この間、ママ友の結構シリアスな人生相談を聞いて、勝手になんとかしてあげなくちゃって思ってた(笑)』
私『思ってたって……今の今まで?』
妻『うん。なんかどうにもこうにも解決出来そうにない話だし、でも、聞いてあげるだけで気が済むのかなぁとか思ってて、いつの間にか頭の隅でその内容を精査しようと考えこんでた気がする………』
私『相談事とか、超苦手じゃん。なんだって急に……』
妻『……分からない。なんか急に色んな余裕が出てきて、ちょっと調子に乗ってたのかもしれない』
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性の一つと言えるのかどうかも定かではないが、私が勝手に思い込んでいる持論がある。
それは彼らが混沌とした情報のあふれる社会で、認知について支障をきたしてしまうのは、入ってくる情報を【事実・現実】と認識を決定するに至るプロセスに、他の今までの経験や知識の眠る分野の神経を迂回せず、目に見たもの聞いたものを、そのまま【事実・現実】として処理してしまうことがあるのではないかということ。
これは育った環境によって、発達障害の様相を後天的に受ける場合にも同様ではないかとも思っている。
本来ひとつの事実を認識する際に、決まり事やその場その場に沿った法則を、親や周囲から複数教え込まれる(いわゆるしつけ)。これは神経が【事実・現実】を司る脳の後頭野にたどり着くまでに、そういったいくつもの思考の中継地を作り出し、ひとつの答えにも複数の選択肢や前後関係への迂回路を作り出しているのではないだろうか。
しかし、こういった然るべき選択肢やルールを伴わない状態で成長していけば、この迂回ルートは構築されず、見たもの聞いたものそして感じたものがそのまま【事実・現実】となってしまう。
これはあくまで私の素人の妄想で、それを確かめる知識も知力も術もない。
ただ、妻とのこのやりとりで、私は余計にこの妄想じみた仮説に想いが湧いていた。そして同時にあることに思い及んだ。
認知行動療法って、凄く理にかなってるのかもしれない
私はその時、ちょっと前に娘の二次障害対策と、自身のうつ対策として購入していた、いくつかの認知行動療法に関わる本を読み返すことを決めた。
娘や自分の目線ではなく、妻を元に読み解こうと考えたのだ。
長男を手がかりに娘を知り、娘を手がかりに長男を知り、長男を手がかりに妻を知ったのだから、その逆もありえるだろう。
その時私は、今までとは違う革新的な一歩が踏み出せそうな予感がしていた。

【つづき】⇒アスペ妻の記録~二段の認知~

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  • 夫。30代。
    定型。フリーのデザイナー。
    自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
    心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。

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