自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性を持つ妻と、これまで共に暮らしてきて、いくつかの大きな関係の変化がありました。その変化が訪れた時というのは、たいてい妻自身の理解やひらめきから起こっているので、今でもよくそういった瞬間の話を振り返ることがあります。
大きな変化と言っても、お互いにちょっとズレたとらえ方をしているだけだったり、ASD当事者本人の特性から一般的ではない認識をしてしまい、それを是正するに大きなエネルギーやきっかけが必要になっているだけの事が多かった気がします。
実際はその時、どんなに言葉を変えてみても、タイミングを待ってもうまくい伝わらない時は伝わらず、感情的にさせてしまったり、生返事ばかりで応じてもらえないこともしばしば。
【ちょっとした認識のズレ】
言葉にすれば簡単ですが、妻からすれば“それまでになかった概念を人生に取り入れる”ことでもあるので、私たち夫婦には時間のかかる問題に発展していたものもあります。ただ、なんの抵抗もなくすんなりと受け入れてもらえることもあれば、はたと立ち止まり頑として耳を貸さなくなることもあります。
こちらから見れば、その可否の差はそれほど感じず、言葉にも気をつけていたのに……と首をかしげることも。そういった時の反応にはいくつかのパターンが有り、また乗り越えるパターンの様なものもあったように感じました。
今回は妻のここまでの歩みを振り返って、壁に突き当たった時の反応の仕方と、越えられたパターンをまとめてみたいと思います。
夕方に沈む、朝が辛いなどの生活パターン
特性としてありがちな、聞き入れてくれない時のパターンとしては
・後ろめたさがある
・提案に対し不安がある
・今の方法に満足していて変えたくない
・問題を感じていない
・現状に不満もあるが他に方法がないと思い込んでいる
などがありますが、共に暮らす上で最初に表面化しやすいのは、生活パターンに関わる事だと思います。
気だるさや眠気、しつこい疲労感を抱え、夕方以降は起きていられずに突っ伏し、朝もスッキリすることがない。比較的若い夫婦の場合だと、このズレが意外と信頼関係を崩したり、寂しさを生み出すきっかけになることが多いのではないでしょうか。生活パターンが問題化しやすいのも大人同士だと思います。
『なんでいつもそんなに疲れてるの? 体調も自己管理してよ』
原因が分からないまま、パートナーが夕方からリタイヤし続けていると、最初のうちは気遣って心配したりもしますが、長く続くと相方は不安になったりイライラしてしまうものです。この状態は私たち夫婦にも起こり、それは結婚後4~5年続き、ゆるやかに家の覇気や活気を失っていきました。
症状的には抑うつ状態などの二次障害の様にも見えますが、うつが原因だったのではなく、彼女の特性からそれに近い症状を生み出していたことが後にわかりました。
当時の要素として
・結婚後の生活環境の変化
・出産や年齢によるホルモンバランスの変化
・親になるという自我の変化への戸惑い
・自分のやり方に他人のやり方が入ってくる戸惑い
・家事のとらえ方や毎日のことへの脅迫的な使命感
主に生活様式に関わる、環境の変化がまず存在していたわけですが、複数同時進行や未解決問題から切り替えられない彼女は、何かをしている時でも他の何かにどこか心を支配されていて、どんどん体力や思考メモリを奪われていたようです。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特徴として、【一定の環境下では安定するが、変化の多い家庭などの小規模な社会では戸惑いを感じやすい】といった点があげられますが、妻もその通りの反応をしていました。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特徴として、【一定の環境下では安定するが、変化の多い家庭などの小規模な社会では戸惑いを感じやすい】といった点があげられますが、妻もその通りの反応をしていました。
こういった戸惑いの中でも、【自分は辛いんだから仕方がないじゃないか】と、不機嫌な方向に向かっていってしまう場合と、【こんな事で悩んでいるなんて申し訳ない】と落ち込んでいってしまう方向があります。どちらの場合も問題が長続きして、要因として苦手な状況だと判断した場合は、見ようともしなくなったり、感情的にシャットアウトする傾向がありました。
こうなるとシャットアウトに集中してしまうため、余計にこちらからのアドバイスや言葉が伝わりにくくなり、耳には入っているのに理解する意識下まで届かない状態が続きます。
妻がこの状況を抜けるにはいくつかの段階がありましたが、ざっと並べると次のようなラインナップになります。
・明確な生活パターンやタイムスケジュールを決定していく
⇒家事などもとにかく効率化を図るためにテストを重ねる
⇒やることが決まることで『何か』に追い立てられる時間をカット
⇒やることが決まることで『何か』に追い立てられる時間をカット
・休憩と家事や仕事などにメリハリを付け、頑張る時と休む時をバッツリ
⇒『☓ちょっと休憩』しっかり休む。状況によっては昼寝
⇒体力温存ではなく短期集中型のサイクルにするため
⇒体力温存ではなく短期集中型のサイクルにするため
・家事にも夫婦やり方を擦り合わせ、飲めないものは自分がやる
⇒やり方でのぶつかりや不満を機会を設けて一発解決
⇒不満要素防止なので、落とし所を取れればよい
⇒不満要素防止なので、落とし所を取れればよい
・『ありがとう』励行
⇒作業の終わりや肯定の表現になる
・体調の取り違いを修正
⇒意外にこれが大きい
⇒気が抜けた・目が乾いた・汗が乾いたなどの認知の修正
⇒ジョギングなどのリズム運動で的確な肉体の疲労を認知する
⇒気が抜けた・目が乾いた・汗が乾いたなどの認知の修正
⇒ジョギングなどのリズム運動で的確な肉体の疲労を認知する
大枠としてはこれらが大きく変わるための、足がかりになった対策ですが、それ以外にもちょっとずつ認知のズレや、極端に感じてしまっている状況把握なども補正していきました。大人の場合は特に、両極思考や完璧主義があると、生活様式や生活レベルの維持などを自己評価と結びつけやすく、【出来ない】ことに自分を責めがちです。それがまた余計に余裕を奪う負のスパイラルになることもあります。
わが家の場合は急な変化や多くは求めず、確実にこなせていけるものを積んでいくことで、段々と余裕が出てくるのを待ちました。実際はパターン化や効率化に目が向くと、特性として強い実行力を発揮することが多いので、結果的には速い解決につながりました。
上記の様な時は、とにかく『考えるべき案件』を少なくし、パターン化に持ち込んで本人の得意パターンに持ち込めるようにするのがお互いに楽でした。
体調と自己評価低下との関係
体調が悪い時に不機嫌になるのは誰にでもありがちなことですが、わが家のASD当事者3人の場合は、それとは違う大事なものまで低下してしまうことがあります。
【自己評価の判断基準】です。
基本的に“疲れ・体調不良・寂しさ・悲しさ・抵抗感”など、マイナスな感情をひとまとめに混同しやすい性質があり、そこに両極思考が重なると極端な沈み込みをする傾向が見られます。とたんに自己評価が下がりやすくなり、小さなミスや浮かんだ不安で自分を追い込み、人といることに疲れてしまいます。
この時、愛着を向けている人物が近くにいる場合、自己評価をそこに預けきってしまうのですが(人の顔色をうかがったり、人目を気にする感じ)、自己評価も自信も低下しているために余計に不安症状を見せるようになるパターンが存在します。
こうなると一気に余裕がなくなるために、人の言葉に耳を傾けることは難しくなってしまいます。またその期間にぶつかってしまった場合には遺恨が残り、似たような状況になるとフラッシュバックを起こし、問題に冷静な思考ができなくなってしまう危険性も。
わが家の場合は【ひとりにさせる】対策を取りました。
体調が改善するまで、正常な会話と気持ちのやり取りは困難です。どんなに優しい言葉であろうとも、分かりやすい説明であろうとも、【是正】の気配があれば電池切れの人には重圧ですから。
特に愛着を向けられている私は、徹底的に距離を取ります。
短くて数時間、長くて2週間程度。そんな時は他の子のケアに回ったり、それを言い訳に家事をサボる週間にしたりなんかすることもなきにしもあらずんばずんばです。
短くて数時間、長くて2週間程度。そんな時は他の子のケアに回ったり、それを言い訳に家事をサボる週間にしたりなんかすることもなきにしもあらずんばずんばです。
最初は『家族として冷たくないか?』と不安になったこともありますが、人間関係につかれた時の充電は、意外と一人の自由さで回復するものなのだと彼らから教わりました。充電完了すると、本人からのアプローチが出てくるのでゆっくり待ちます。
これが分からなかった頃は、余計につついてしまい、悪循環にあえいでいた時期もありました。
注意すべきは季節・天候・湿度・外での社会生活などの見えにくい要因が刺激していて、本人もなぜ低下しているのか分からない事が多いことです。
『気温の変わり目だし、つかれちゃった?』とか『もしかして、今~~な感じになってない?』など、体調を具体的な言葉にしてYES・NO形式のクローズドな質問をすると、謎が溶けてリラックスを取り戻すこともあります。
『気温の変わり目だし、つかれちゃった?』とか『もしかして、今~~な感じになってない?』など、体調を具体的な言葉にしてYES・NO形式のクローズドな質問をすると、謎が溶けてリラックスを取り戻すこともあります。
前置き・着陸地点と余裕があれば理想も伝える
【なんのための話なのか、なぜ話しているのか、どうすればいいのか】
会話の途中でこれらの疑問や不安が出ると、会話の筋を見逃してしまうのは定型でもあることですが、特にふと湧いた疑問に集中してしまいやすい特性を持っている場合は、前置きが必要になることがあります。
『君を否定したり、ダメだってことじゃなくて、もっと楽になる方法があるんだけど聞いてくれるかな?』仰々しい様ですが、こちらの意思を最初に見せる前置きで、緊張を解いておくと途中から聞き流されたりする事が減るようです。
また、アドバイスや指示を伝える場合でも、単純に作業のことだけより、なるべく完成形を目に見せる方が理解しやすく、“分からないことへの不安”にメモリを取られることが少なくなります。その上でもし、本人に余裕があるようであれば【こうできると理想なんだけどね】とか【これがこうなる様に実現できると凄いんだけどね】など、理想を伝えておくと通常作業でのブレなどが減ることがあります。
もしかしたらゴール地点を先に置くことで、全体的なモチベーションが高いところで維持され、作業全体のクオリティにつながるのかもしれません。
もしかしたらゴール地点を先に置くことで、全体的なモチベーションが高いところで維持され、作業全体のクオリティにつながるのかもしれません。
話を聞いてもらえるか?
いきなり事実をぶつけられれば、誰しもそれなりのショックを受けたり、感情に波が起こりやすいものですが、そういった感覚に敏感なのであれば伝え方を考えるなどの工夫が必要になります。例えば『よくあることなんだけど』『こういうので困る人いるらしいんだけど』『この間ネットで読んだんだけど』など、多くの人も抱えた問題であることを伺わせ、問題の規模を薄めたりなど。
大げさかもしれませんが、【この世でたった一人の責め苦】とは、どう転んでも受け止められない安全圏を用意してあげることも時には必要になることがあります。
そして、これはあくまで私自身の体感ですし、科学的根拠も何もない、それこそ素人のたわごとなのですが……
ASD当事者の方は、人間関係に先入観や愛着がつくと、冷静な判断をしてくれることが難しくなることがありますが、そう言った先入観での関係を超えた伝え方が出来ると、すっと言葉を受け入れてくれる方が多いような……。
関係は関係、事実は事実とそこにあるものを認識しているからなのかもしれませんが、冷たくなった定型よりも難易度が低く感じることもあります。
関係は関係、事実は事実とそこにあるものを認識しているからなのかもしれませんが、冷たくなった定型よりも難易度が低く感じることもあります。
つまり【確かさ・権威・立証】などの前置きや、【楽に聞ける事実か】など、その個性に合わせて事実にショックを受けないように運ぶと、聞いてくれる可能性が上がるのではないかと思ったりしています。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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