書いてある内容をちらっと
妻と会話している娘を見ていると、わずかだが違和感を感じる。それは彼女を知らなければ【言いがかり】に近い、違和感なのだろうと思う。
─── 人の話を聞いているようで聞いていない
極端な時は言われているそばから、注意された行動をそのまま続けていたり、同意したのに何に同意したのかわからなかったり……。
妻の言葉に要所要所、的確にあいづちを打ったり、返事を返してはいるが、やや瞳孔が開いたような不安感のある目と、【うん♡】と常に身を乗り出すような演技がかった姿勢。
そして、親がいる時はどこか【しっかりここに居られている】を演出するような仕草が、いたるところで見え隠れしている。
慣れない小学校生活で疲れている?
憶えなきゃいけない事が多くて余裕が無い?
いや、多分違うだろう。彼女は今、小学校の教室で続けていた立ち振舞や、自分なりに遂行している【人との関わり方】から、家族といる時の関係性に切り替えられていないのではないだろうか?
自分の立場とそこにいる意義
※これ、意外と特性によっては大人の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の当事者や、パニックになりがちな方にも有効かもしれません。
長男の新一年生時代にも起こりましたが、今、彼女に起こっていることの要因の一つは【自分の立場とそこにいる意義】が一部欠けているからです。同時に【話を分かろうとして聞く】という、感覚的に一歩乗り出す意識が薄かった事が挙げられます。
わが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)当事者たちが、環境の変化や情報の氾濫が立ちはだかると、起こりやすくなるいくつかの特性の助長があります。
自分の気持ちや体調に鈍感になったり(感覚鈍麻)、ざわつきや肌の感覚などの、普段ならある程度の選択的集中が効いているはずの感覚に敏感になる(感覚過敏)などです。
そういった自分の状況や心に気がつくのは、状況と特性とが一致して難しくなることがあるので、キーワード付けだけでは上手くいかないことがあります。
ある程度の環境の想定ができる場面では、うちでは【自分の立場とそこにいる意義】を予め確認することが有効な事が多くあります。自分の心は曖昧ですが、そこに関わる目的や意図は明確に設定できるからです。
細かいようですが、学校で先生と生徒の間に起こるやりとりを、できるだけ多く想定し、ひとつひとつ分解して明言していきます。
両極思考が強く【失敗=悪】と考えやすい娘は、人間関係でも相手からの評価を常に気にして、相手に合わせるのを再優先してしまう傾向があります。
彼女の場合、こうした環境の変化が起こると、まず先生などそこにいる大人や年長者に評価されようと、友好的な態度を表すことに躍起になります。
その初歩的な行動であり、しかし後半からどんどん人間関係の悪化や、自分の立場を失わせる行動が【しっかり聞いているふりをする】です。相づちや相手の顔を見ることなどに集中すると、“よく聞いている”と評価される事が多いので、そればかりになり話を理解できるほどの実感やメモリを確保できていない状態です。
内と外で問題が異なる
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の子供の場合、外で問題になるのに家ではおとなしかったり、家では問題になるのに、外では大きな問題が起こらないなどのブレが起きることがあります。
我が娘にもその傾向があり、どちらかと言えば外では大きな問題はそれほど起こりません。しかし、家では一切リラックスをできなくなったり、自分の立ち振舞を気にしすぎて押しつぶされてしまう事が常でした。
彼女の場合は両極思考が強く、失敗で自己評価が下がることを恐れ、集団にいる時は基本集団の流れに合わせて隠れ、確実に評価される時だけ前に出るという方法をとっていました。
彼女にとっては、【教えられる=できていない=悪】でもあるからです。
気分によっては教えられただけで落ち込み、気分を害するなど周囲が理解できない感情の起伏を見せることもありました。
家に帰ると紛れるための集団がありません。家族同士の行動はすぐに把握されます。【教えられる=できていない=悪】な彼女は、『そこ、壊れてるから危ないよ』などの注意すら【悪】なので、常に緊張状態を強いられることになっていたのです。(これが判明する詳細はこの過去記事⇒アスペ妻の記録~当事者意識~)
この両極思考に支配された認知も、彼女本人がピンポイントな言葉の再現によって自覚し、大きく前進しました。しかし、完全に消えたわけでもありません。
家ではリラックスしていますが、外の世界ではまだ【他人からの評価をそのまま自己評価にしている】のは変わりません。特に急な環境変化が起きた場合、この傾向は強くなり【相手の視線に合わせていればいい】に傾倒していきます。
これを帰宅時に切り替えられるほど、まだ娘は大人になっていませんし、そもそもその人に合わせる行為自体が“悪いことかどうか以前に、そうしている自覚がない”という、相手をコントロールするための行動・選択に偏っています。
今まではこの内と外での問題の違いが、正体不明の難問でしかありませんでしたが、ここまで分かれば逆に“外での対外的な行動が予測できる”というヒントだらけです。
ちょっとした表情の硬さや、不自然なイントネーションなど、そこに浮いて見える全ての仕草が、今の彼女の“外での重大事”を知るための手がかりになります。
適正な認知とのすり合わせ
まず、彼女がそうしている事の自覚を促す必要があります。
『今日もいろんな事をたくさん教わったでしょう? 疲れた?』
(今現在の体感覚の自覚を促す)
『先生にいいお返事するのに夢中になってなかった?』
(行動を思い起こさせる)
『それって、いいお返事すれば先生が褒めてくれるからだよね?』
(自分の欲求を思い出させる)
『ちゃんと話が分かってた? 終わった後“何すればいいんだっけ?”ってならなかった?』
(行動・選択の結果を認識させる)
『先生がしっかり教えてくれたのに、君が“出来なかった”ってなるのは、君だけじゃなくて、教える仕事の先生も辛いんじゃないかな?』
(結果から考えられる影響を明示)
『だから、先生が本当に欲しいのは、しっかり聞いているフリの君じゃなくて、話をわかってくれる君なんじゃない?』
(行動・選択の修正)
といった流れで説明をしました。彼女が理解しやすくなったのは、さらに私の幼いころの記憶を話したことが大きかったかもしれません。
お父さんも君くらいの頃、話している人の顔をじっと見たり、『聞く』ってことに必死になって、いざその後『で、何だっけ? ここで何かするのは分かるんだけど、俺、なにすればいいの?』って思ってたことがあるよ。
だから次はもっとちゃんと『聞こう』ってしすぎて、やっぱり途中で疲れてボーっとしちゃったりする。
でも、ある時ひらめいたんだ。
『これは何のための話で、誰のための話で、何させようとしてるのかを聞き出そうとすればいいんじゃないか?』って。その話で自分がどうすればいいか探そうとすればいいって思ったんだよ。
急に話を聞くのが楽になったし、ボーっともしなくなった。話す人の方を見るのも、相手の顔を見るんじゃなくて、わかろうとすると自然とそっちむくんだよね。
だからさ、頑張ってなんとかするんじゃなくて、これってスイッチじゃない? 『話を聞く時』のスイッチを決めただけなんだよ。だから凄くラクに出来るようになったよ。
“頑張ってなんとかするんじゃなくて”のあたりで、腑に落ちたような実感のある表情になってました。【話を分かろうとして聞く】という意識は、自分が困ったときに超えられるチャンスがあるのかもしれませんが、娘の場合自己評価の低下やパニックに直結してしまう危険性があるので、こちらから働きかける必要がありました。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。