書いてある内容をちらっと
小学校1年生はどれくらいの会話力があるものなのか、長男の時は語彙力が低く、また話の要点を絞れないため延々と不要な話をして居ることが多かった。
なんとなく『会話力が遅れているのかも』と気になり、お友達を連れてきた時などに耳を傾けてみた時期がある。
結果は【この時期の子は個人差が凄く大きい】───。
驚くほどしっかりしゃべる子もいれば、キャッチボールができずテンションでやり込めようとする子。子供同士の会話でもその個人差は存在している。『おじゃまします・おじゃましました』『ありがとう』『ごめんなさい』などの基本的な挨拶が出来るかどうかも千差万別。
長男の場合は本人の【言葉と表現の伝え方テクニック】が問題だったので、意図的に要点が話せるように誘導を掛けたり、適切な表現を教えて選択肢を広げる対応でクリア。理由が分かりやすかった事と、対処もしやすかったので特に苦労は感じなかった。
……が、娘の場合はちょっと様子が違う。
聞き取り・受信に関して、本人に意味は通じている(ものによって苦手はあるが)。しかし、話を聞いている時にどこか“無駄なエネルギーを浪費している感”がある。
話す・発信に関しては、いちいちと言っていいほど、表現がズレていたり“当たらずしも遠からずな言葉選び”が当たり前に起きている。
─── そして、厄介なのはこういう時に言い方を直したり、正しい言い方を教えただけでも、彼女のコンディションによっては【失敗・間違い=悪(両極思考)】となり激しく落ち込み、その後の会話が余計にそぞろになってしまう。
“無駄なエネルギーを浪費している感”
“当たらずしも遠からずな言葉選び”
特性と片付けるだけでは全く対処のとり様がない。今までも気にかかっていた部分だが、これら2つの原因と、会話中の両極思考をさらに強めていた原因がようやく分かった。
※この記事中の出来事は、わが家の娘の場合の特性や本人の偏りによるものです。全ての自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の方に当てはまるものではありません。また、似ているからと言って、それが自閉症スペクトラムであることの根拠にはなりません。
今だから分かること
今回はわが家の娘の独特なケースですが、行動・選択の取り方に【こういうつまづき方もあるのか】と、なんかのヒントになることもあるかもしれないので書き残しておきます。
会話の最中、言い回しや言葉選びが独特で、外の大人との会話では明らかに間違って伝わっている事が多いのがよく見受けられました。
本人も間違って伝わっているのに気がついているのかどうか分からない時もありますが、間違いに気がついたとしても、そこで諦めてなあなあにしたままその場を離れたり……。
小学校低学年ではありがちな事だとは思いますが、これもわが娘のありかちなケース【違和感を感じるくらい頻度が高い】。
年齢的な部分を踏まえて考えてみても、会話のレベルは抜きに不成立なことが多く、相手に意味を拾ってもらうことで成立することに偏っているようでした。
どこか【会話をするという行動の中に、何か余計な行程が入っている】そんな感じ。
なんてことのない会話の中でも、相手の言葉に対して何かしら『~~ってこと?』と聞き返してきますが、その表現がいつもどこかピンポイントに正解しているものではない事が常です。むしろ、わざとズラしているかのような独特な外れ方をしてきます(60~70点くらいの解答)。
そして、そういった時の彼女は、会話の内容を理解をしていない事が多いのも特徴でした。
例えばいつもの就寝時間より、ちょっと早い時間に『今日は疲れてるみたいだから、今日はもう寝ようか』という提案をした時のケース
娘『はやねはやおきってこと?』
私『よく知ってるね。でも“早寝早起き”は早く寝て早く起きるって意味だからちょっと違うかな。疲れているのだから早く寝て、いつもと同じ時間に起きれば、いつもより長く寝ていられるでしょ?(紙に描いて説明)』
娘『……うん(微妙な反応)』
私『疲れているんだからどうするんだっけ?』
娘『はやねはやおきってこと?』
私『今日はもう寝ようって事』
娘『ああ……そういうことか』
私『あれ、どこいくの?』
娘『え? となりのへやにマンガをとりにいくの』
私『今日はもう寝るんだから、寝る準備をしようよ』
娘『ああ……そういうことか(歯をみがきにいく)』
……こんな感じです。いつもと予定が狂って戸惑っている様子はありませんし、疲れているからといって思考力が落ちているという様子もありませんでした。
こういう風に『~~ってこと?』と聞き返して来た時は、言葉の意味や言い回しのズレはもちろん、内容が届かない事が高確率で起こります。
彼女に起こっていたこと
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)によく言われる特性や傾向で考えようとすると
自分の中にある材料(言葉)だけで何とかしようとする
自分の知っている言葉とピンポイントで同じではないから分からない
言葉からの意味が上手く拾えない
会話中の違う意味を補正できない
相手に好印象を与えることに意識が行きメモリ不足
会話に何かしらの理由で緊張している
などの原因が考えられましたが、どれも言い得ているようで決定的な何かが感じられません。上記に当てはまる状況でも、起こらない時は全く起こらないのです。
ある時【じゃあ、なんで言い直すんだろう?】と言う点で彼女の立場に立って考えていたところ、とある可能性が頭に浮かびました。
私『あのさ、娘のことなんだけど』
妻『ん?』
私『娘って、話ししている時に“それって、~~ってこと?”ってよく違う言葉に言い直してから聞き直して来ない?』
妻『……ああ~、あるね。あるある』
私『あれさ、それそのものの言葉を憶えるために聞き直しているんじゃなくて、自分の中にある言葉に翻訳しなおすために言葉を探してきてたりしてって思ったんだけど、どう思う?』
妻『ああ! それあるかもしれない。後さ、“自分は分かってる”って姿を見せようとしすぎて、話に頭がいってないとかもあるよね』
私『そう、それそれ、それもある! たださ、あまりノリとして“人を意識していない時”にもこの聞き返しが起こって、だいたいそういう時って会話が理解できなくなるんだよ』
ここから話はより詳細に向かい、ひとつの仮説が浮上した。
最初は【分かっている自分を演じることで、評価をあげようとする】状態からスタートするが、それらが起こる時期には波がある。
1日に何度も、何日も繰り返すうちに当初の目的が薄れていき、その【自分の中にある近い意味の言葉を上げることで自分の理解を表現する】という行動のみに偏りだす。
やがて本人も知らないうちに【自分の中にある近い意味の言葉を上げる】ことだけに集中するようになり、会話の全体の流れや今投げかけられた言葉の意味を実感を持って理解出来るだけのメモリを確保できていないのではないか?
というもの。
その日に娘に話すことがあったので、早速その仮説の元に対応してみることとなりました。
予想以上の効果
娘と学校生活について話をしていると、やはり彼女は『それって、~~ってこと?』を投げかけてきました。
そこに対してなるべく自然に切り替えしてみました。
私『ああ、今はそうやって言い直さなくていいから、聞いている言葉をそのまま使って聞いてくれる?』
─── その瞬間の娘の顔は何と言えばいいのか……。
怒られた風でも恥ずかしい風でも困惑する風でもなく、スケジュールの書かれたボードを見て、【ああ、この作業は今しなくていいのね】と極自然に認識して自分の作業に戻る感じといいましょうか……。DVDで言語選択出来るのを知らずに英語で観てて、切り替えボタンを教えてもらった瞬間といいましょうか……。
彼女にとっては『ああ、この作業やってなくていいなら楽だわ』くらいの感じだったのかもしれません。明らかにあいづちの打ち方や返答に自然さが現れ、会話が止まること無くスムーズに流れだしました。
それどころか、その後、妻と話していても飲み込みが速くなり、【ひとつひとつ説明をせざるを得ない空気】がなく、さくさくと理解しているのが目に見えるようでした。
長男や同世代のお友達に話しかけた時の、あの不安定感やズレを感じさせない、気軽な雰囲気。
特に何かを説明して理解してもらったわけでもなく、この一度きりの切り返しで、彼女は突如大きな変化を見せたのです。
もちろんここ最近の自己評価の置き方や、両極思考への対処などがあっての変化だとは思うのですが、それにしても大きな変化でした。
もし、仮説の通りだったのなら(余計な先入観を持たれたくはないので確認することはしていない)、彼女が咬み合わない会話をしていたり、言葉の意味が何かしらズレていくあの感じにも説明がつきます。
彼女は最初の目的はどうであれ、聞いた言葉を一度自分の言葉に訳すように照合する作業をはさんでいた。
だからメモリは余分に失われ、実感が薄れやすくなることで、場に相対的なボーダーも失いやすくなっていた。そうして両極思考が起こりやすくなる環境を自ら起こし、会話の度に軽くフリーズしかけるような思考の氾濫状態に陥っていた。
会話中での新たな言葉の吸収は激減し、結局、扱う言葉は自分の中にあるものだけで回そうとすることになる。印象に残るのは会話の時に思い浮かべた【自分の中にある近い意味の言葉】に、大きく偏ることとなり、自然と語彙力は少なくなっていく。
という感じでしょうか。
会話をする上で評価を受けようとする、彼女の認知自体はもう少し先の理解となりそうですが、そこで取ってしまっていた行動と選択にはアプローチできたのかもしれません。
ちなみに彼女がこうした取り違いを起こしていたのは珍しいことではありません。
【違う・間違う=悪】と両極思考が強く、また意識的に自分と他人との違いに耳と目を塞いできた彼女には、こうした『行動・選択さえ変えれば簡単に楽になるのに、なぜわざわざ迂回したやり方をするのか……』というものが数多くありました。
どうしても変えられない特性であったり、そうしないと自身の心を守りきれないのであれば触れる必要はありませんが、『こうなるのは嫌だからこうする』という程度の判断でパニックを起こすほどの歪みを生んでいるのなら手を差し伸べる必要があります。
あれから一週間近く経ちますが、彼女のフィルターがかかったような距離感のある会話は戻ってきていません。
今回はそんな彼女独特の行動・選択のひとつでした。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。