長男
※これはわが家の軽度自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の長男のケースです。子どもの個性には個人差が多くあり、こういった傾向があるからといってASDであるという根拠はありません。あくまでわが家の記録です。
長男の通っていた保育所は、小学校入学の準備に対して、かなり熱心に指導してくれていた。結果、彼はふだん先生の話をちゃんと聞いたり、姿勢よく椅子に座ったまま集中できるようになっていた。
小学校入学式当日、式典が終わり体育館から教室に父兄とともに移動、その時の彼の様子はどこか『心ここにあらず』といった感じだった。ちゃんと担任の先生の話も聞いているし、椅子には座ってはいる。ただ、どこか反応が遅くワンテンポからツーテンポ送れて動いている。明らかに【聞いた話】と【やるべきこと】が一致しておらず、他の子の動きを見て判断しているようだった。
その日から、彼の様子が変わった。
目が座っていて会話の反応が鈍い。何をするにも転動が激しく、全てに時間がかかりすぎている。学校生活に不安があるのかと訪ねてみても、反応は鈍いがどうやら相当に楽しんではいるようだ。
入学から3週間ほど過ぎたある日、長男が帰宅後すぐに遊びに出て行った後、たまたま別件で担任の先生に訪問して頂いたので様子を伺ってみた。
【授業はしっかりと理解してくれているようですが、ときおりおどけ過ぎたり、興味を取られて席を立ったりしてしまうことがあります】とのことだった。
今までの経緯や彼の特性から考えると、また何かしらの“取り違い”がある可能性がある。話をしようと帰りを待っていると、彼はなかなか帰ってこない。門限を1時間過ぎた頃、外から依然、大騒ぎして遊んでいる彼の声が聞こえてきた。これで門限破りは三日連続になる。
……私はそっと玄関の鍵を掛けた。
■今だから分かること
彼が小学校生活に対して不安や、精神的な負担があったのかといえば、あったのだろうと思います。ただしそれは、入学直前までのことで、実際の生活が始まってみれば、一年生の最初の授業はほぼ学校になれるためのレクリエーションが主です。
彼は構えていた分、そのギャップから一気に【学校に通う意図】を忘れてしまいました。
簡単に言えばそれだけですが、わが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の当事者3人に共通しているのが、【話や行動の前後関係から、自分のやるべきことを見つけるのが極端に苦手】という弱点があります。つまり、ふつうの子で言えば『大したこと無いから調子に乗っちゃった』ところですが、彼の場合は『完全に目的を忘れてしまったために、生活全般、尻切れトンボになってしまった』状態です。
そこに環境変化の興奮と、【嬉しいパニック】が上乗せされてしまったようでした。
【嬉しいパニック】とは楽しいことがありすぎた時に起こる、自制できない状態で、自力では脱することは難しく体力を使いきるまで興奮状態を上げていこうとしてしまうパニック。これは長男が幼いころによく見られたもので、4歳以降はかなり鳴りを潜めていたのですが……。感情コントロールが上手くいかなくなってしまった訳です。
【嬉しいパニック】とは楽しいことがありすぎた時に起こる、自制できない状態で、自力では脱することは難しく体力を使いきるまで興奮状態を上げていこうとしてしまうパニック。これは長男が幼いころによく見られたもので、4歳以降はかなり鳴りを潜めていたのですが……。感情コントロールが上手くいかなくなってしまった訳です。
では、わが家ではどう対策をとったかと言えば、答えは簡単です。
【学校に通う本分】を思い出させてあげました。
そのためにはまず、【嬉しいパニック】を止めなければなりませんでした。彼の場合はそのパニックを凌駕するだけの刺激が必要になります。そこでとった行動が、門限すら忘れて飛び回る彼に対し、玄関の鍵を掛けたのです。
教育方針やその子の特性によっては、大きなショックになる可能性があるので、あまりお薦めは出来ません。しかし、彼の場合はここまででも冷静に会話をしたりしていた中で、ほとんど効果はありませんでしたので対策を講じました。
教育方針やその子の特性によっては、大きなショックになる可能性があるので、あまりお薦めは出来ません。しかし、彼の場合はここまででも冷静に会話をしたりしていた中で、ほとんど効果はありませんでしたので対策を講じました。
彼はどんどん陽が沈んでいく中、ようやく帰ってきましたが、玄関が開かないことを悟ると庭をウロウロ。
自分からは『開けて欲しい』などの言葉を言えません。かわいそうなようですが、これも大切なこと。
自分からは『開けて欲しい』などの言葉を言えません。かわいそうなようですが、これも大切なこと。
気づかれないところから様子を見つつ、頃合いを見計らって玄関を開けると、無言で家に駆け込もうとする長男。
その彼を制止し、一度私の表情を見せた後、再度視線をずらさせて質問しました。
その彼を制止し、一度私の表情を見せた後、再度視線をずらさせて質問しました。
【なんか言うことがあるんじゃないのか?】
長男『……ただいま。約束を破ってごめんなさい』
緊張の糸が切れたのか、泣きじゃくる彼を家に上げ、閉めだされた理由を話してから、落ち着かせた後に本題へ。
【小学校は何をするところだっけ?
お家にいる時間と小学校にいる時間は目的が違う───。
お家はゆったり休んだり心地よくいるところ。
学校は将来、大人になった時に知らなきゃいけない、最低限の勉強やマナーを教えてもらうところ。
先生の話を聞いたり、その時にやるべきことをちゃんと考えるのも、大事な学校の勉強だ】
お家にいる時間と小学校にいる時間は目的が違う───。
お家はゆったり休んだり心地よくいるところ。
学校は将来、大人になった時に知らなきゃいけない、最低限の勉強やマナーを教えてもらうところ。
先生の話を聞いたり、その時にやるべきことをちゃんと考えるのも、大事な学校の勉強だ】
これらの本分を思い出させ、表情で確認をとった後、さらにやるべき目的を伝えました。
A:【お家と学校は目的が違うけど、約束やルールを守るのは同じ】
B:【人の話を聞く時に相手の方を見るのは、“何を話しているのか”を見つけるため。耳に入っているからって、分かったわけじゃない。なんのためか分からないと聞いてないのと同じ】
Aは緩むところは緩ませても、律する一線を明確にするための伏線です。今は全てが理解できなくても、目の前のルールを守り、それ以外で弛緩していれば、彼の場合は勝手にメリハリが利くことが多い傾向がありました。今までもここを守れると安定することは分かっており、【ここだけやればダラけたり、ふざけても良い】と後に自分で判断できるようにするため、あえて最終目的は告げてません。中途半端に自分で区切りをつけると、余計に疲れを感じることがあるようなので、自分の気持ちなどをもう少し認知できるようになるまではこのルールにしました。
Bは誰にでもある感覚ですが、彼は特にその傾向が強く、壁になることが多いので指摘しました。
耳に入っているから【聞いている・分かっている】と思い込み、それ以上を聞かなかったり、結局理解できていなかったりすることが多くあります。“口で正解は言えるのに、実際はよく理解していない”この積み重ねは後の苦手意識になることがあるので、小学1年生ではまだ難しかもしれませんが伝えました。今、分からなくても、後で経験と結びついた時に理解すると、理解度が大きくなることがあるからです。
耳に入っているから【聞いている・分かっている】と思い込み、それ以上を聞かなかったり、結局理解できていなかったりすることが多くあります。“口で正解は言えるのに、実際はよく理解していない”この積み重ねは後の苦手意識になることがあるので、小学1年生ではまだ難しかもしれませんが伝えました。今、分からなくても、後で経験と結びついた時に理解すると、理解度が大きくなることがあるからです。
すでに話の途中から、表情にいつもの力が戻ってきていましたが、話を終えた時に大きなため息を肩でつき、憑き物が落ちたようにリラックスした表情に戻ったのが印象的でした。
結果は……面白いくらいに即効。
目の輝きが戻り、楽しかったことを進んで報告しようとしてきたり、わからないことをちゃんと聞きに来たり。
自分の立ち位置が少しつかめたことで、親が近くにいることを思い出したかのような、安心して生活している様子が復活。
自分の立ち位置が少しつかめたことで、親が近くにいることを思い出したかのような、安心して生活している様子が復活。
学校でも変化があり、事業中の立ち歩きがなくなり、ぼーっとする回数も減少(私の息子だし完全じゃないのは当たり前か)。教室での着替えや、移動時の整列なども目に見えて速度が上がったと、担任の先生からもお墨付きをいただきました。
これは考え過ぎかもしれませんが、この安定した時期は夜のうなされや、夜驚症もぱったりと止んでいたような気がします。もしかしたら、目的が分からない浮遊感は、実は彼にとって想像以上に不安なことだったのかもしれません。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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