長男
おもちゃ屋さんに行くと挙動不審。買ってあげようにも選択を迫られてパニック。会話も通じなくなり、ウロウロさまよい出す。
大人に『おもちゃを買ってあげる』と言われると、瞬間的に目がおかしく・言動もおかしくなり、言われた瞬間から購入まではもちろん、そのおもちゃである程度遊ぶまで会話にならない。
サンタさんへのプレゼント候補は、去年のクリスマスから毎月2~3回変更が繰り返され、戸棚に手紙が増えていく。……しかし、自分の口からは絶対に【欲しい・買って】とはねだってこない。
■今だから分かること
最初は逆に執着の弱い子かと思っていました。
おもちゃ屋さんで地団駄などはありませんし、お店に行くとウロウロとはしますが、どれか特定の物を見つめるなどがありませんでした。
おもちゃ屋さんで地団駄などはありませんし、お店に行くとウロウロとはしますが、どれか特定の物を見つめるなどがありませんでした。
彼のこの行動は、今までの記事で【拒否を極端に恐れる】【自分の気持ちが分からない】などの観点からまとめてきましたが、今回は妻の幼少期レポートと合わせ、わが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)当事者3人に見られる、【受動型ASっぽい言動】の基本原理をまとめてみたいと思います。
妻の幼少期の【物欲】に対する記憶
普段から雑誌やCMで『物欲』にかき回されているので、おもちゃ屋さんに連れて行ってもらった時は、もう色んな物が頭に氾濫していて苦しかった。
物心ついた時には『おねだりしても通らないもの』と考えていた。
しかし、激しく断られたりなどの恐怖心があったわけでもなく、『そうである』といつの間にか思い込んでいた。
しかし、激しく断られたりなどの恐怖心があったわけでもなく、『そうである』といつの間にか思い込んでいた。
やがて、ふだんから『物欲』が湧くと苦しくなるようになり、『なんでも出せる魔法使いになれないなら、欲しい気持ちなんてなくなればいい』と思うことがあった。
これは最近になって、色んな気持ちを言えるようになった妻が、ようやく話してくれたことです。
流石大人は自分の心を言葉にできるので分かりやすい。色んな裏付けにもなりました。
流石大人は自分の心を言葉にできるので分かりやすい。色んな裏付けにもなりました。
最後の『なんでも出せる魔法使いになれないなら、欲しい気持ちなんてなくなればいい』はメルヘンだなぁと思いますが、両極思考とこじつけられなくもありません。結果を自己で『手に入る・入らない』の両極に分け、最初から諦めようともしているわけですから。
─────常に物欲はあり、しかしそれに対する気持ちを表現しなければならない地点で、極端な結末を考えて抑えこんでしまう。
この感覚はどうも長男の挙動と共通しているように思えてなりません。
長男と妻の共通点
例えば5歳当時の長男を、おもちゃ屋さんで落ち着かせる方法はこうでした。
買ってあげるつもりの時
最初に【以前から欲しがっていた物などを示唆して思い出させる】などをして、すぐに購入するものを決めてしまいます。そして『他に何もなかったら、これを絶対買ってあげる。後は安心しておもちゃ見学してみよう。もし、もっといいのがあったらそれを買えばいい』とうながし、落ち着かせる。
買ってあげるつもりがない時
入店の前から『今日はおもちゃは何も買わない。もし見たいのなら見ていっても構わないけど、見るだけ。絶対に買わない』と、ハッキリと告げておきます。何も告げていない場合、『もしかしたら……』などにつながり、突発的な感情になりかねない。おもちゃ売り場のあるようなデパートやホームセンターなどが要注意。
このふたつで、外出時の不安定などは、ほとんど起こらなくなりました。
【おねだりしても通らないもの】と悲観しながら、物欲に心をかき乱されている状態の場合、こうして最初から結果が分かっていれば、余計な葛藤が生まれずに済みます。
私がわが家の当事者3人といて、【依存されている】などと、疲れを感じやすかったことの根幹も、この【おねだりしても通らないもの】的な発想が大きく関与していると考えています。
受動的な態度の裏側
例えば週末のなんでもない外出などで、『じゃあ、次どこ行きたい?』とか、『なんか食べたいものある?』と聞いた場合に、答えが返ってきたことはありません。何に対しても受動的で、自分の要求を言わなかったり、提案などはなく、しかし不満そうな顔をしていたりしました。
こういう時、本当は当人たちは気持ちが決まっていたり、すでに気持ちが二択で80%くらいまで解答が決まりつつある状態だったりします。しかし、口にしようとはしません。聞いても何かしらの理由をつけて言おうとしないのです。
これらは普段の生活の場合も、小さいながら全てにおいて起こっていました。
『今どうすればいい?』が全て私の判断待ちになってしまうのです。
『今どうすればいい?』が全て私の判断待ちになってしまうのです。
掃除・食事・風呂・就寝・テレビ・遊び……etc.
酷い時は私がいる限り自主性がなくなるので、自室にこもらざるを得ないことが、よくありました。私がいる限り、気持ちや要求を告げることを引いてしまいますが、私がいなければ自分たちの考えで日常の繰り返しを営もうとはします。
しかし、進むこともない。
たとえ不便を感じていても、足踏みするようにそれを繰り返します。
たとえ不便を感じていても、足踏みするようにそれを繰り返します。
受動的をメリットに変える
これは『依存』と言う言葉だけにくくってしまうと、定型との生活では、非常に解決策が見えにくくなりますし、わが家の当事者3人の長所も活かせなくなる危険性があります。
彼らの長所は定型の私たちに比べて、『ケース』ごとで憶えていく記憶力があることです。一度納得してインプットされた習慣への再現のこだわりは、認識次第で短所にも長所にもなります。
『こういう時はこうする』と、状況が明確に把握できる場合、そこへの判断は定型の“空気を読むような複合的な反応”より、しっかりと吟味した上での意見になるので的確になることがあるようです。
『こういう時はこうする』と、状況が明確に把握できる場合、そこへの判断は定型の“空気を読むような複合的な反応”より、しっかりと吟味した上での意見になるので的確になることがあるようです。
こうした『ケース』で理解してもらいたいことがある場合、その主旨も必要になります。
【これは~~だから~~する】といった目的意識やテーマ。
受動的な言動をケース化するための障壁となりやすいのは、【本人は依存の自覚がない】ということです。『言わないほうがいい』など、こちらからみれば消極的な思考も、実際は本人の判断によるものなので、依存の意識がないことが多いようです。
受動的な言動をケース化するための障壁となりやすいのは、【本人は依存の自覚がない】ということです。『言わないほうがいい』など、こちらからみれば消極的な思考も、実際は本人の判断によるものなので、依存の意識がないことが多いようです。
この認識のズレをしっかり伝えた上で、【こういったケースではこうしてみたらどうだろうか】と提案していく形がもっともうまくいくパターンでした。
わが家で起きたことの具体的な流れとしたら、
・気持ちを言わないのは、気持ちを考えてもらうことになる。それは自分の思い通りにならないことが多いし、卑怯だと言われることもある。
・言わないとゼロ。叶えてもらえなくても、それはその時だけだから、後で叶えてくれるかもしれない。それでも叶えてくれなくても、自分の気持ちは伝えられている。
・どう言えばいいのか分からない時は、その気持ごと言う。
・叶えてもらえないのは『拒絶』じゃないから、続きもある。
などを、意見を黙っているように感じた時は『もしかして今~~って思ってる?』と声がけしながら伝え、後付になってでも気持ちを言うようにしてもらいました。
で、その結果
長男の場合は段々と『欲しい』を伝えたことで成功例を積み、また、買ってあげられない状況の時は『今日は用意がないから買えないや、今度できてる時に考えさせてよ。でもこれが好きなのはちゃんと分かったよ』と、拒絶と取り違えない言い方を心がけました。
この辺から『相談の仕方・助けての言い方』も同時進行していたので、我慢しすぎて潰れたり、物欲にパニックを起こすことに関して、的確なブレーキが出来るようになっていった気がします。
妻の場合は上記と合わせ、
・気持ちや考えは言葉に出さないと形にならない
・常にもっと良くなることを思い続ける必要がある
・苦手だから触れないのは自他共にデメリットしかない。せめて口には出す。
が大きなポイントだったようです。
『はい・いいえ』だけでも、自分の気持ちの乗った答えを挟むことで、そのグループの色が決まっていくことはよくあることです。強く大きな意見を言わなくても、複数の人間の社会、特に家族はちゃんと反映していきます。
なにより、ちょっとした物欲でも素直に口にできる関係があれば、気持ちの伝え方が分かりますし、受動的な印象はグッと小さくなります。
わが家の場合は家族の過半数以上が気持ちを言えず、スタートラインが後ろにあったぶん、こういった小さな言動のメリットを見つけられたのかもしれません。今も実にゆっくりですが、曖昧ではない関係になっていってると信じたいところです。
【関連記事】
拒否を極端に恐れる反応
自分の気持ちが分からない
⇒5歳:その場で気持ちが言えない正体│アスペルガーの気持ちの認知
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夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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