先日、リクエストをいただきましたので、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の長男と娘、そして定型(いわゆるふつう)の次男のここまでに見た、【お試し行動】についてまとめてみたいと思います。
【お試し行動】とは、親や大人など自分に関わる相手に対して、チラチラと伺いながら行動してみたり、わざと怒らせるような行動をして、相手の出方を確かめようとする行動です。
わが家の場合、長男と娘のお試し行動は幼児期に非常に多く見られ、やがて一定の時期に消えていきました。次男はほとんど見られなかったものの(具合が悪い時や眠い時はあった)、一定の年齢に達した時に現れ、やがてすぐに消えました。
たまに、こうした子供のお試し行動を、【虐待・親への不信感】とひとまとめにしてしまうケースが見られますが、恐怖心でのオドオドとは違い、明確な試す理由があるのがお試し行動だと思っています。
これらは定型の子供でも、発達障害のある子でも起こり得る、認知のためのれっきとした学習行動ではないでしょうか。
しかし、一方的に長く試され続けると、親は誤解を受けたり自分の愛情を疑ってしまう事があります。今回はこうしたお試し行動をわが家の子どもたちの違いと、その対処法から彼らがどんな目的で行っていたのか見つめてみます。
長男の場合
ハイハイ時期からお試し行動は見られました。どこかに進んでは『ここまで来たがどうか?』と言うように、何度も親の方を確認することから始まり、何かを手にとってはこちらの反応を伺ってる様子が見られました。
やがて、自分の行動を抑制される事で、不快感を表せるようになった頃、【行動⇒親の反応を見る】の連続から【行動⇒親の反応を見る⇒止められると癇癪】の連続に移行していきました。
これらは自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の子供だけに限らず、定型発達の子供にも見られる様式ですが、彼の場合はその頻度が違います。一日中、何かに夢中になっていない限りは、延々と繰り返し続けられました。
この頃はそこまでする理由がわからないため、それが緊張や不安感にしか見えず、こちらもどこかリラックスできない日々が続きました。
2~3歳の頃になると、他の大人が来た時に、親がいつもどおりに動くのか試す行動が頻発するようになりました。相手にくっついてはこちらをチラチラ伺い、いつもは止められるイタズラばかりを繰り返したり、グズグズを装いながら相手を思い通りに行動させようとし、親の出方を試すなどです。
これらの頻度も激しく、止められれば癇癪を起こし、放っておいても常に考え続けているために疲労し、急に感情を爆発させるため、来客や人に会うのが億劫になった時期です。
この長男のお試しチキンレースは、親以外の大人が現れると、そう決められているかのように始まり、いなくなるまでそこに集中していました。
不思議なことに親の前でもお試し行動は取るのですが、私だけの時や妻だけの時はガクっとやらなくなる事が多かったので、もしかしたら人ごとの反応を学習するために繰り返していたのかもしれません。
彼のお試し行動は【叱られる・怒らせる】こともセットで学習されるので、こちらが反応を返さない時は不安を感じ、癇癪を起こす上、この辺りから【失敗・間違い】に対する敏感さが顕著になっていました。
現実と思ったことがズレた時に、必要上のショックを受けたり、『0か100か』や『白か黒か』のような両極思考が表面化してきていたと思います。思考や発想も豊かになってくることで、本人は『もう、何を試しているのかも分からない』という程、お試しと癇癪がごちゃまぜになっていきました。
長男のお試しが終わった頃
4歳くらいになると、ふだんのお試し行動は消えていきましたが、来客があると『もっと楽しく・もっと刺激的に』とタガが外れるため、ふだんはやらない行動に大きく偏り、親の反応をチラチラと“気にする”形に移行していきました。
同時にひと通りのデータを揃えた彼は、【自分の立ち振舞かた】に強く執着するようになり、人に合わせて行動するための観察が多くなっていきます。
また、具合が悪いとか眠たい時の『助けて』が言えない時に、わざと怒らせる事で布団に連れて行ってもらうなどの、判断を親にさせるという行動などに【お試し行動】から学習した選択を流用するようになります。
お試し反応が強いという事は、人への観察に関心が強いとも言えるのかもしれません。こうした流れの中で、現実と思ったことのズレを極端に嫌う彼の場合、誤学習が入ると非常に苦しむケースが多発していました。
【いけないものはいけない】と誰の前であっても、自発的な修正が起こらない彼には、しっかりと教えてあげない限り安定できないという個性が見え始めた頃でもあります。
娘の場合
ハイハイ時期から思い通りにならない事への癇癪が激しく、一度止められた事は印象に強く残るのか、その行為に執着する傾向が見られました。
長男の場合とは逆で、先に両極思考が強く出た後、段々とお試し行為が始まっていきました。しかし、長男と比べその両極思考の度合い、思ったこととズレる事への憤りが強すぎたため、この頃から自他共に【何がしたいのか分からない】日々がスタートします。
常に癇癪で大泣きしながら、しかし、刺激に強かった【ダメなこと】に心奪われ、親といる間は禁止された事しかしないという状況になっていました。
3歳くらいになると、【ダメなこと】は親がいない所でやり、親がいる時は常に反応を観察するようになります。例えば積み木ひとつを持って近くに座り、少し動かしてはこちらの顔をちら見。少し動かしてはこちらの顔をちら見。と、日がな一日でも続けました。
この時、『なぁに?』など声をかけようものなら癇癪です。彼女の思う結果ではないからです。
【失敗・間違い】に対する拒否感は長男に比べても格段に強く、さらに自分と他人が全く同じ考えや気持ちであると、境界線を理解できていないため、お試しの結果に対し、数ミクロンのズレでもあろうものなら憤り全開でした。
お試しをする回数は長男と同じかそれ以上。しかし、ほぼ100%予想がズレているため、その度に癇癪を起こしていた形です。
今だからそう言えますが、当時はなんの手がかりもないまま怒り続けているので、何が気に入らないのか全く分かりませんでした。
3~4歳になると、親以外の大人が来た時のお試し行動に、独特なパターンが現れました。親の前でその大人にベッタリくっつき、頬ずりやキスなど普段は自分から進んで絶対にしないような接触をしながら、流し目で親を伺うというもの。
もしかしたら嫉妬を知るようになり、そうした動きを親に起こそうとしていたのかもしれません。こういう時の娘は、絶対的に『いい子』であろうと演じていました。この行動は全くこちらが動じないことが分かると辞めていきました。
そのためにやはり長男と同じく、体力を使い果たして不快感を持ち、激しい癇癪へと移行していきます。ただ、長男とはそのレベルが違うため、来客があると1~2週間単位で一緒に居られないクラスの不安定に苛まれました。
4~5歳になると親へのお試し行動は消えていきましたが、新しい先生や関わりの強い大人へのお試し行動は激化していきました。しかし、その対象は常にその場にいる重要度が一番高い人物に限られ、そこに重要度が低い人物しか居ない時は、意に介さず禁止事項であろうと平気で行うという厄介なパターンが出てきました。
“【ダメなこと】は親の居ない所でやる”が、ひとつの選択として残ってしまったのかもしれません。
娘のお試しが終わった頃
4歳の最初の頃に、ふだんから試すような行動はなくなりましたが、5歳の中頃に突如お試し行為と同様な行動がぶり返しました。
あくまで推測ですが、この時期は保育所などで、自分と先生とのやりとりで済んでいた社会が、少しずつ子供同士の社会形成に移行していく頃です。今までのやり方が通じなくなり、非常に不安定になっていた所に、長男と同じく【自分の立ち振舞かた】が全てになり、対人関係のバランスを崩していたのではないかと。
さすがにお試し行動で、少し結果がズレた程度で癇癪は起こさなくなりましたが、相手がどんなに不快感を感じていようが、思った通りの反応を返されることに執着していました。
これは一定以上の関係性を持つ相手には、ことごとく向けられていて、そうでない相手の前では意に介さないか、“いい子”を演じるなどパッキリと分けていました。
以前よりは言葉を聞く姿勢が出てきていたので、ここに来てイヤイヤ期くらいに教えるであろう善悪の判断やルールから、もう一度教え直しました。
最終的に【人は人、自分は自分】と改めて実感を伴った理解を持ち、人との関わり方に自分がとっている行動・選択や、【どう感じていたのか】の認知を確認することで、お試し行動はほぼ完全になくなりました。6歳の頃です。
次男の場合
ふだんの生活には全くといっていいほど、お試し行動は見られませんでした。疲れたり具合が悪かったり、そうした体調の変化が起きた時、自分ではそれを理解できないのでわざと親を怒らせるなどの行動で決着をつける傾向はありましたが、それも子どもとして当たり前のブレ幅にありました。
しかし、娘と同じく5歳に差し掛かった頃に、一時期変化が現れます。
突如チラチラと大人を確認する行動が始まり、また、遊んで欲しい相手やして欲しいことを、遠回しに気づかせようとする、お試し行動に似た行動が出てきました。単純に【断られるのが嫌だから相手にやってもらう】という、幼児ならではのコントロール欲求だったのですが、姉弟の不安定時期のタイミングが良くありませんでした。
本来はこの時期くらいで『ちゃんと気持ちを伝える・人に働きかける社会性』の初歩を学習をしていくはずだったのですが、娘のぶり返しや長男の不安定時期と重なり、試すような形や自分の振る舞い方にこだわるなど、行動・選択を兄と姉からトレースしてしまったのです。
見た目にはお試し行動の様な行動、しかし、行動・選択をトレースしただけなので、自分も何をして欲しいのかが分からないまま、闇雲に憶えた行動を繰り返し、不安が煽られるのでさらに没頭するという悪循環が起こりました。
そして、この行動は親だけに限らず、誰にでも行うようになりました。
次男のお試しが終わった頃
長男が落着いたタイミングで、欲求からの行動・選択を分解して教えることにしました。
遊んで欲しい時は、そのまま【遊んで】って頼むか、一緒に遊べそうなおもちゃを持ってきて、【これで遊んで】って言えばいいだけ
一般的で極普通のやりとりですが、兄や姉の行動には【不安感】という強い刺激が合ったため、彼自身ではここに自力で戻ることでが出来なかった様です。改めてやり方を言葉にすることで、イメージしやすくなった様です。すぐに行動に変化が現れました。
厳密にはお試し行動とは言えないのですが、自分の直接的でない行動から、相手の反応を試したり動かすという点では似ています。
まとめ
わが家の子どもたちを見ていて、お試し行動にはそれぞれのテーマとなる『欲しい情報』の違いがあったように思います。延々とされている時は辛いですが、情報がそろうと止めていきました。
通常のお試し行動は【こうすると、こうなる】の因果関係に納得がいったものから消えていったように思います。
よく『ただ抱きしめて、大好きと伝えて安心させてあげましょう』なんて解答を目にすることがあります。本当に子供自身が求めているのが『愛情』であれば済むかもしれませんが、知的好奇心や社会性の獲得のための行動であった場合はどうでしょうか。
【今、こうして欲しいって思ってる?】
長男と娘の無意識なお試し行動や、それと似た行動に対して効力が強かった、自分の欲求を自覚させる投げかけです。定型の子供であれば放っておいても自発的に理解していきますが、特定の発達障害を持っている場合、人間関係の形成にまで影響が出てしまう事があります。
この投げかけは次男にも非常に有効でした。【どうして?】と同じく、答えられることはしっかり答えて説明し、その行動自体が目的でなく、かまって欲しいだけであった場合は、その目的を確認してあげる方が憤りは産まないのではないでしょうか。
お試し行動は大人の持つ社会常識からすれば、好意的には映らない行動ですが、子供はまだそれを分かりません。今、お試し行動が多くて親としての自信が揺らいでいたら、今、必死にそういうことを知ろうとしている時期なんだと考えると、気持ちが楽になるかもしれません。
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夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。