自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性としてはレアなのかもしれませんが、わが家の長男と娘にはちょっと独特な性質があります。
娘が往来で石を投げるなどの危険な行為を始め、それを注意している時、ふだんはそういうことを一切しない長男が横で石を投げ始める。
『ここ危ないから踏まないようにね』と長男に注意している横で、聞き耳を立てていた風な娘が、そこを踏み危ない目に合う。
また、兄妹間だけでなく、赤の他人にでも起こります。
誰かが注意されていると、その横で同じことを始めようとする事が結構あります。注意をされている人物がいなければ、全く意識をしないにも関わらず、誰かが注意されているとやってしまいます。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)には関係ないのかもしれませんが、ASD特性や実感の持ち方などから説明がつきそうなので、ちょちょいと書き残してみます。
だいたい生返事か怪訝な顔を返す
ふたりとも幼い頃はその頻度が激しく、一人を注意しているともう一人がいつの間にか近づいてきていて、同じことをやり始めるシーンが連続していました。
親猫が穴の外に出てしまった子猫を戻そうとすると、他の子猫が親の動く気配を感じて出てくる。それを戻すと他の子猫が親の動く気配を感じて出てくる。それを戻すと……
なんだか猫の子育てに見るループシーンを想起させるので、【子猫なだれ現象】としておきます(注意されてる人の横で、後追いで同じ失敗をする現象を説明する、よい言葉が見つからないので)。
長男はかなりなくなって来ましたが、娘はまだ【子猫なだれ現象】が色濃くあります。結果的に注意される事が起こる場所に、いつもいるなんて事も。
長男も少なくなったとは言え、時折やらかしてはいますが、そうではない時との差が見られるようになった分ヒントをたくさんもらえるようになりました。
そうして気がついたのは、ふたりとも【子猫なだれ現象】が起きる時、自分も注意されると、だいたい【生返事か怪訝な顔】をしていて反応がとても鈍いということです。
実感力と離人状態
パニックやフリーズという程でもない、この独特な反応の鈍さは、実感力が薄い離人感っぽい状態によく似ています。
離人感とは何らかの理由で現実感を失い、実感や感覚が持てなかったり、自分が自分ではないような、意識が身体から離れている様な感覚に陥ることをいいます。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性というよりは、様々な要素が絡んできて、脳の処理が追いつかない時にメモリがアップアップになると、似たような事が起こる様です。
解離性や離人症そのものではなく、そこに意識を保てない状態ではないかと。この離人状態が強く激しく起こるようなストレスや、厳しい環境下でショックを受け続けていると、やがてはそうなるのかもしれませんが……。
実際、こうした反応は定型の大人でも、処理作業の負荷が強まってくると起きているのではないでしょうか。
例えば職場でアクティブに複数の仕事をこなした後、帰宅すると毛色の違う家族との問題などを投げかけられ、頭の流れを切り替える事に困難を感じるといった、思考が交通整理できない渋滞状態とも似ています。
五感を活用したり実感を得るためには、そこからの知覚を処理して、自分の行動につなげる作業が必要です。そのためにはメモリの空きが必要です。なんらかの環境変化や、未処理の問題が残っている場合、実感が薄くなる傾向があるのは、今までの彼らの特徴を見ていても分かります。
メモリ不足と人との距離の喪失
メモリ不足から実感力が低下すると、同様に起こるのが【他人と自分との境界線の低下】です。
自分の思っていることが他人もそう思っていると考えてしまったり、自分に関係のない悪い出来事に、自分が悪いと思い込んでしまう【責任の個人化】なども、そのうちの流れではないかと思っています。
メモリが足りない状態に陥っているので、両極思考や表面思考がさらに強調されてしまう事もありますが、その逆に実感も低下していると『何に対してどう反応しているのか』が失われてしまうケースがあります。
・実感がない
・自他の境界線がない
・認知力も低下していて、自分の気持ちがわからない
ここまでそろうと、自分の中に感覚よりも、他から与えられる刺激にほのかな実感を感じてしまう様です。
普段『注意される・間違うことを忌み嫌う』、両極思考な部分が強い彼らは、思考がぼんやりとしてても、そこに実感の刺激を感じてしまう。結果的にそこに近づいてしまったり、その注意される状態に瞬間的に心奪われてしまう。
しかし、実感のある状態ではないので、静止されても癇癪を起こすほどの否定感も受けない(幼い頃は思考する階層が浅いため、この状態でも否定への感覚が近くて癇癪を起こした)。
だから怯えや怒り、不安の爆発ではなく、【生返事か怪訝な顔】という薄い反応だったのではないかと。
または、人との境界線が薄くなっているために、【子猫なだれ現象】の子猫のように、“親の動く気配を感じて出てくる”といった、本能的な人恋しさ(無意識の同調といった方が近いかも)に引き寄せられたのもあるのかもしれません。
以上から分かったこと
たいてい【子猫なだれ現象】が起こる時、いつもと違う散歩コースだったり、旅行中のサービスエリアや自然の中だったりします。自宅や人の家の中では起こりにくいのも特徴でした。
スーパーやショッピングモールなどの公共の場では、通常の買い物の場合は起こりませんが、ウィンドウショッピングなどの目的意識が想定されていない場合には起こっています。
家や閉鎖的な空間では、身の振り方や立ち振舞に集中するので、ある意味メモリを割く場所が限定的になり、境界線を失うなどの自我の実感力の低下が抑えられているのかもしれません。
過去記事でも、デパートでの買い物に疲れやすい方への対策記事を書かせていただきましたが、その対策にも通じるものがあります。
【子猫なだれ現象】は直接的な声がけでは、対処していくのは難しいと思います。『やって良いこと悪いこと』『各場面での過ごし方の指針』『自分の居場所作りや立ち振舞のケーススタディ』がしっかりと深く認識されなければ、すぐにメモリを割く場所を失うでしょう。
これらは経験と知識が必要なので、どうしても本人の発達具合も関わってきます。
出来る限り本人がメモリを失いやすい環境やシチュエーションを見つけ、また本人にもそれを『こういう時に~~ってなるよね』など自覚させ、意識的に対応策を取っていくと理解が早くなるタイプの問題な気もします。
特殊な例ですし、笑ってごまかせる事も多いので、特に【子猫なだれ現象】自体が問題だとは思いません。しかし、どうしてこうなるのかを分析することで、何が関わっているかをあぶり出すのは、本人たちの将来的に重要な戦術のひとつになるかもしれません。
わが家の長男や娘は、ひとつひとつの起こす問題については非常に軽い傾向があります。だからつい、『これって、良いか悪いか微妙だなぁ』とか『うーん、これはちょっと気になるけど、子供ってこういう事あるしなぁ』と葛藤し先延ばしにしてしまうことがあります。
しかし、自身で気が付き理解する点においては、問題にされなかったやり方など、その手の内だけで繰り返していこうとする傾向もあります。小さなズレが後々に足かせになり、克服に大きなエネルギーを要したり、強い混乱や自己評価の低下につながることも。
もちろん本人が気がついて言ってくれたり、自分で失敗して学んでいくことが理想です。
それでも、どんな問題が起こるかの手がかりは、今回の様に思いもかけない小さな行動に隠れている事が多いので、理解くらいはしておくと転ばぬ先の杖だったりするのかなぁと思っています。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。