運動会と親子遠足では大泣きしたり、母の姿を見つけるとしがみつこうとして足掻く。
……が、他の同様な保護者参加型のイベントなどでは、むしろ距離感ゼロで見知らぬ人に抱きつこうとしたり、注目を集めようと必死になっている。
特定のイベント以外は全くの別人─。
同様に彼女にとっては、同じ場所・同じ時間でも何かをきっかけに、そこにいるのがとてつもない緊張状態に変貌することがある。
■今だから分かること
以前、『5歳:父に懐かない・部屋にいるだけで硬直│フラッシュバックと囚われ1』に書かかせていただいた内容の、最も根底の特性だと思われます。
『過去の体験や経験が、視覚優位な非常に鮮明な記憶として突如よみがえり、現在の事のように話したり実感したりする』
これは自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特徴のひとつと言われる【タイムスリップ】と呼ばれるものです。中にはこの鮮明な記憶に空想部分や認知のズレが加わり、強調されて再認識されて困惑することもあるようです。
これは自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特徴のひとつと言われる【タイムスリップ】と呼ばれるものです。中にはこの鮮明な記憶に空想部分や認知のズレが加わり、強調されて再認識されて困惑することもあるようです。
フラッシュバックとタイムスリップの違いは『嫌なことなどが鮮明な記憶としてよみがえるのをフラッシュバック』『その時間にまで遡ったようにして今まさにそこにいるかのような追体験や記憶の錯誤がタイムスリップ』といったところです。
この運動会での彼女の混乱はなんであったかと言うと、単純に過去に感じた不安や経験を思い出して不快感に襲われている時と、『お母さんがいなくなった!』と母の隣で困惑しているような今まさにタイムスリップ中の困惑などが見られました(3歳児の頃の運動会で母親から引き離されたのを毎年思い出していた模様)。
当時の彼女の場合は、不快感や不安などがより強く強調されて、目の前の光景がシャットアウトされているようでした。また他の良い思い出まで塗りつぶしてしまうことが多く、『運動会=別離の恐怖』であるととらわれてしまい、最初からリラックスする様子が見られないことも。
一番厄介だったのは過去の認知のズレまで再現してしまうのか、もう『これはこういうことである』と理解できていることでも、その頃と同じくわからないものとして認識されていることもあり、意識をこちらに呼び戻すのは困難でした。例えば競技中に親と離れることや、人との距離感、大人の言葉に従うことや、自分の気持ちを言葉にすることなどのレベルが、一気に3歳の頃にまで戻るなど……。
そしてこれらはすでにイベントが始まる直前から、頻繁に思い出すことが繰り返されているようで、むしろ自分からその状況にはまり込むために意識を向けているようにすら思えます。
そしてこれらはすでにイベントが始まる直前から、頻繁に思い出すことが繰り返されているようで、むしろ自分からその状況にはまり込むために意識を向けているようにすら思えます。
一度こうなると復活は難しく、その後の時間も不快感を露わにしてしまい、もうグズグズです。
特に『別離』の象徴である母親への束縛が激しくなり、競技中も母親が動こうものなら『お母さんはここにいて!』と競技を放り出して駆けてきてしまったり、激しい癇癪泣きを起こしながら目で母親を探し続けたり……。
特に『別離』の象徴である母親への束縛が激しくなり、競技中も母親が動こうものなら『お母さんはここにいて!』と競技を放り出して駆けてきてしまったり、激しい癇癪泣きを起こしながら目で母親を探し続けたり……。
ただ、4歳の頃までは『言葉すら通じない』状況で、この5歳になると『会話にはならない』程度まで意識レベルを保てるようにはなっていました。
結果、運動会終了後に母親から激しい叱責を受ける事となります。元が恐怖や不安からくる現象なので、叱るなどの行為は逆効果であるとされますが、わが家の場合はちょっと違ったようです。
彼女にとっての『別離の象徴』である母親が、『タイムスリップ』先である当時とは違い、説明をした上で理論的に間違いを指摘してくる訳です。そしてそれは最も大きな要因となっている、『自分からはまり込むために意識を向ける』とらわれに対し、それを分かっていながら再現しようとする娘自身を戒めることとなりました。
叱責の内容を上げれば次のようになります。
・運動会はみんなで練習したことを練習したとおりにやること
・嫌なことはもう一度起こさなくていい
・自分が不快だからといって、人に不快なことをしてはいけない
・嫌なことはもう一度起こさなくていい
・自分が不快だからといって、人に不快なことをしてはいけない
この頃は今まで叱ったり、道徳を教えようと出来なかった妻が、子どもたちに対してそれらを取り戻しにかかった時期でした。そのため、娘は妻に対して元の『押しに弱い母親』でいるよう、激しい癇癪と抗議で獣のように唸りを上げながら反抗していた頃でもあります。
しかし、娘には娘なりに『失敗を再現しようとしていた』ことや、『不快な気持ちを思い出したから不快な気持ちになろうとしていた』こと、『そのために不快な態度で周囲にも当たっていた』ことなどの後ろめたさがあったようです。さらに運動会の疲れもあってか、いつもの激しい抵抗は少なく、すぐに神妙にしていました。
これ以降、この他のタイムスリップやフラッシュバックが起きていたイベントは、大きな改善が見られるようになりました。親の方で特に意識的に継続したのは『イベント事の目的意識の確認』。目的意識が与えられることで、余計な不安に意識がとらわれることなく、落ち始めた自分を止められないなどの現象を食い止められるようになったのです。
わが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の当事者3人に言えることですが、彼らにはどこか『低いところに自然と落ちていく』ような、自ら失敗に向かっていく方向に歩を進めてしまう傾向があります。また、そういった時は薄ぼんやりと自覚していて、その感覚を持って『分かっているから大丈夫』と根拠の無い自信をもっていたりもします。また、失敗に向かいだして自ら抜けられないと感じた場合、失敗することで終わりにしようとする極端な思考があったりします。
今回の娘の行動はその典型的なことのひとつでもあり、自らタイムスリップやフラッシュバックを起こそうとしていたのかもしれません(本人はそんな言葉も知りませんが、不機嫌でいる時は要望を言いやすく、不快から親が引き剥がしてくれるという甘えがあった)。
もし当事者本人が気分的に不快な方向に囚われて、その気分で『失敗で終わらす』や『不快だから失敗にする』などの、『安易な選択』を望んでいる場合は、依存やマイナス思考を終わらせるチャンスかもしれません。わが家にとって、それには叱責も大きな手段であったということです(ただただ怒鳴るなどではなく、何が何でもこの話はわかってもらうという親の気迫で、こちらに視線を向けさせることが肝)。
『これをやってもいいんだ』はマイナスな方向にとらえてしまうと、定型もASDも関係なく厄介になりがちなものですし、この考え方は一度陥ると抜け出すのが大変なのは全人類共通です。
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夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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