書いてある内容をちらっと
【職場や学校での対人関係で常にパニックがある】
【新しい環境や物事に対して混乱・集中できない】
【一度パニックになると自力で抜け出せない】
など、多くの場合は【思っていたこととズレた】という場面でパニックは起こりやすい様ですが、パニックが起こる原因を自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性と、定型者も抱えている心理の観点で考えてみると、いくつかのポイントがあるように思います。
今回はわが家のアスペルガー症候群の当事者たちが、パニックに陥る回数を激減させたちょっとしたキーワードをまとめてみたいと思います。
不安とパニック
まずパニック時、何が起きているのかと言えば、その多くは以下の状況が多いのではないでしょうか。
・使命感はあるが手の付け所が分からない
・今まであった考えが飛んで真っ白になる
・【違う】などの否定ばかりになり思考を失う
・すでに失敗した方法から目を離せない
・【どうしよう】がグルグル回る
などの、【分からない】の氾濫です。そしてパニックになっている状況で、意外と本人が一番最初に失っているのが、【今、自分が感じている不快感がなんなのか】です。
【私たちは、正体の分かっているものに恐怖を感じ、正体のわからないものには不安を感じる】
──フロイト
──フロイト
妻のパニック状態を観察していると、フロイトの言葉は正にその通りで、ほとんどの不安は何かが【分からない】時に起こっているのですが、さらにその【分からない】が【何が分からないかが分からない】と対象ごと見失うとパニックに陥っているようでした。【分からない】が重なると、失敗することは明白なので、そこから進むことに恐怖を感じてしまうのです。
この時、彼女は【今、自分は分からない事があるから、不安を感じている】という自覚がありませんでした。つまり、問題に対して思考する以前に、【今自分がどうなっているのか分からない】という、もう一層後ろの不安に突き動かされていたのです。
そして、そのどれにも手を付けられず、思考がグルグル回る度に【分からない】物を薄っすらと感じて不安を増大させてしまう。
だからここで【どう思っていたのか、どうしたいのか】と聞いた所で、我に返る道理になっていないのです。正しくは【何が分からないの?】とか、【今、分からない事があるから、不安なんじゃない?】など、不安を生んでいる対象を絞ることと、今自分が感じている不快感が【不安】であると自覚することでした。
まずは自分の状況が【分からない事があるから不安を感じている】と一つハッキリさせるだけで【では他の分からない事はなんだろう】と手がかりを見つけやすくなります。【何が分からないのか分からない】が解消されるだけでも、不安症状の原因はかなり掴みやすくなります。
キーワードは【分からないから“不安”】です。
答えのない【どうしよう】
例えば人間関係で、仲良くなりたいと思っている人がいた場合、リラックスでき成功する可能性が高い方法と、緊張やパニックというハードルを抱えてしまう方法との違いは以下の観点があります。
A:【仲良くしたいなぁ】
B:【仲良くしたいなぁ、どうしよう】
Aは気持ちを抱えたまま、話したいことを話し、聞きたいことを聞くなど、通常のコミュニケーションを取ります。Bはその方法論や在り方を考えています。
おそらく可能性が高く、関係が長続きするのはAだと思います。Bの場合は自分の想い以上に、方法論への成否や【最適かどうか分からない】などの不安がつきまといます。完璧主義や“すべき”思考が働き、結果的に緊張しコミュニケーションが難しくなりますし、『こうすれば相手はこう動くだろう』といったコントロールの思考に陥りかねません。(※関連記事⇒人の目を気にしすぎる・特定の人物にギクシャクする│ASDソーシャルスキル)
対してAの方は不安の発生源が【仲良く出来るか・出来ないか】などシンプルです。【分からない】が少ないので不安も少なくて済みます。結果的にリラックスし、自然と友好的な表情や仕草が出てくるため、相手も打ち解けやすくなります。
答えのない【どうしよう】は、そのまま【分からない】と同じです。ここに過集中してしまうと、不安を延々と生み続ける事になります。こういった状況を生みやすいのは、人間関係、将来的な目標や展望など、変化が多く答えがない問題ではないでしょうか。これらの事は大抵進んでいかないと答えは見つかりません。
キーワードは【答えのないものの答えを出そうとせず、どうしたいのかを見つめる】
パニックの見える化
パニックは【分からない】が複合的に織り交ざって、自分の感覚ごと【分からない】状態になった時に重くなっているとすれば、まず第一に考えるべきは
【自分が不安になっている感覚を認知する】
という点です。胸の感覚や“恐いような・寂しいような感じ”など、今まで感じた不安を体の実感や言葉にできる感覚を文字などで形にし(出来れば視覚的に)、今後不安を感じた時に『これは不安である』と理解できることが起点となります。
『不安を感じた』という事は『分からない事がある』というサインなので、その【分からない】を見つけてメモをとります。これらは過去を振り返って見つけ出すことも出来ますし、これから起こるであろう行事や、流れに対する不安などからも探すことが可能です。
これらの【分からない】は、パニックが起きていなければ、一つ一つはそれ程大きな問題ではなかったりします。そうして解決する答えが出た場合も、それはしっかりとメモにします。今後、【分からない】をより起こさせないための材料にするためです。
自分で分からなければ、知っていそうな人に『こういう時ってどうするもの?』と聞けばいいだけだったりします。
妻の行った具体的な対策
メモ徹底法:小さなノートを常に持ち歩き、自分の心に引っかかった問題や、その場で解決できそうにない事案を逐一メモ(スマホだと初動に手間取るため、また、手で感覚を感じながら書くことで実感を望んだため、彼女はノートとペンを選択)
ほうれんそう:報告・連絡・相談の徹底。メモに書き加えた内容を人(主に私)に言葉にして口に出すことで、問題を問題としてこの世に形にする。
ちょっとキーワード:上記二つで因果関係がハッキリした事に関しては、不安がわき出した瞬間や、想定される問題がやってきた段階で、『これは◯◯ではない』など、認知のズレが起きないように思い出せるキーワードを決めておく。
パニックに関しては、その場で何とかしていくには、周囲の理解や協力者が必要になりますが、それを後で突き止める事は一人でも可能です。ゆっくりと時間を掛けて【不安】を遡りながら、自分の【分からない】を形にしていくと、次に抱える不安の量が少ない状態でスタートを切れます。
これを繰り返していく事で、パニックが起こる条件に陥るのを減らしていく事が、これらの対策の狙いです。
キーワードづけのポイントは、それそのものの言葉を困ったときにすがるためではなく、概念を思い出しやすくなるように馴染みやすい言葉に上記のような長文を凝縮させることです。この方法なら反復せずとも、概念を理解すれば思い出すことが簡単になるからです。
また、この対策を進めていくと【分からない】が経験不足など未知の問題だから【分からない】のか、問題との関わり方に“踏み込み過ぎだった”などの認知のズレがある場合とに分かれていくかもしれません。その場合は認知のズレに焦点を当てて理解していく作業となります。
それはまた別記事でまとめてみたいと思います。
【関連記事】
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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