自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)のパートナーが罹ると言われるカサンドラ症候群ですが、私自身が抑うつ状態に陥るまでには独特な葛藤がつきまとっていました。
単純に相手との気持ちがズレるという直接的な問題だけではなく、社会的に行動を選択する場合での、何とも言いようのない拘束感の強いジレンマです。
一時はこの説明が出来ないことから、人に相談することも億劫になっていき、結果ひとりで背負い込んだような状態に落ち込んでしまいました。
今回はこの頃に抱えていた、誰にでも起こりうるジレンマの正体をまとめてみたいと思います。
本人に問題を伝える際の葛藤
“本人は問題視していない”
“手をだすと混乱させてしまう”
本人の思考や認知のズレでハマりこんでいる問題でも、それを本人が悟られないようにしていたり、パニック状態から感情的にこちらの言葉を拒否しようとすることがあります。これが続くと【本人も苦しんでいるし、こちらも問題に巻き込まれている。でも、本人の反応を見る限り、触れてはいけないのではないか?】というジレンマが起こることがあります。
また、問題に立ち止まり困惑しているにも関わらず、そこに目を向けているようでありながら、いつまでも改善策に出ようとしないことがあります。この時も中途半端に声を掛けると、余計に混乱を助長させてしまうことがあり、感覚的に【声を掛けないほうがよかったのか?】と後悔を生むことがあります。
わが家での多くの場合は、本人が【問題が起きている】という表面的な事実にとらわれ、そこで思考がループしていることが原因で、【なぜ、そうなったか】にまで及んでいなかったり【自責の念に潰れている】だけだったりします。
自尊心を守る機構として否定的な返答をしたり、隠そうとしたり見ないふりなどを行っていましたが、それも反射的に行っていることが多く、後に落ち着いている時に整然と話をすると動き出すことがほとんどでした。
自尊心を守る機構として否定的な返答をしたり、隠そうとしたり見ないふりなどを行っていましたが、それも反射的に行っていることが多く、後に落ち着いている時に整然と話をすると動き出すことがほとんどでした。
基本的には【理路整然と明確に、こちらの提案を聞く必要性を説く】姿勢だと伝わりやすいのが特徴です。感情的に伝えようとすると本人は自尊心のガードを下げて、ただただ打たれる状態になってしまったり、余計にガードを上げてシャットアウトしてしまう危険性があります。
ただし、これはASD当事者の特性によるものなので、ほんの一部のことかもしれませんが、時折【逃げ場を失わないと動こうとしない】とか、【問題は嫌だけど、知らない改善案に手を出す方が面倒くさい】という感覚になっていることがあります。こういった場合は状況によって、本人の想像以上に将来に関わる問題に発展してしまうこともあるので、本気で衝突することを選択しなければならない場合もあります。
診断・療育や告知に関わるジレンマ
“診断を受けさせるのは残酷なのでは”
“後に引けなくなるのではないか”
“本人が感情的に拒否するのではないか”
年配のご夫婦の場合に多い気がします。また、ASD当事者側が感情的に否定したり、思い通りにならないと癇癪を起こすタイプのパートナーに見られる初期段階のジレンマではないでしょうか?
確かに本人に【あなたは他と違うから診断を受けて欲しい】といきなり切り出したところで、不安・混乱・反発を生む可能性が高いですし、それまで人生形成に関わってきた様々な要素を否定していると思われかねません。また、今までのバランスを崩してしまうのではないかという恐怖心を持ってしまうのではないでしょうか。
確かに本人に【あなたは他と違うから診断を受けて欲しい】といきなり切り出したところで、不安・混乱・反発を生む可能性が高いですし、それまで人生形成に関わってきた様々な要素を否定していると思われかねません。また、今までのバランスを崩してしまうのではないかという恐怖心を持ってしまうのではないでしょうか。
ここで働いている葛藤は、【自分の生活の変化・相手との関係の変化】が大きく、また【それがこじれてしまった先の関係の喪失】が大きいと思われます。実際にこれは私自身が妻に対して、人生や人間性に深く踏み込んだ話を切り出す際に抱えていました。
ふだんはもちろん、こういった葛藤が起こった時にわが家で乗り越えられたのは、【本人が楽になるためのサポート】の視点でした。『あなたが変わるためにこういう診断を受けて欲しい』とか『こうしていかないとおかしい』などの押し付けがましい通念ではなく、『そういうの辛いでしょ。こういうのがあるみたい』とか『そうされるとこちらが辛い、こうしてくれると助かる』という、相手の意思の尊重を図ることです。
“ふつう”が得意な定型は、得てして“ふつう”という通念に溺れやすいもの。そうなっていると自分とは違う通念の持ち主に対して、どこか上から目線になりがちです。そしてその言葉は“形のない否定の言葉”に聞こえやすく、相手にとっては混乱や否定を生む、あやふやで不安に満ちた言葉でしかありません。
これらを繰り返しすぎると、お互いにこの場所を恐れるようになってしまいますが、意外と視点が変わるだけですんなり進みだすことも多くあります。
自分自身がカウンセリングを受けること
私が抑うつ状態に陥った時に辛かったのは、【何をしても無駄】とか【この状況は伝わらないだろう】とか、【自分が今治療を受けたとしても状況が変わらないんだから一緒。薬の卒業のほうが大変】などの、“もうどうにも止まらない”状態。
この頃は自分自身が倒れていられない状況でしたし、寛解の難しさ・状況の難しさ・経済状況・時間がない・まだやれる・世間体が……などがグルッグル回っていました。そして、地味に一番怖かったのは【自分が相手にそうさせていただけじゃないのか?】という不安。元々が自分がおかしかったのではないかという疑いが首をもたげ、その度に恐怖していました。
ASDパートナーとの間に起こる問題の中で、当時の私にとってややこしい要素となっていたのは【お互いに人間として致命的にズレているわけではない】ということです。だから“これぐらいはふつうかもしれないし”などと、責め切れないし切り出せないしでふつうだったらちょっとした違和感も冗談ぽく言い合って進めていけるはずが、そこで毎度立ち止まってしまったわけです。
気が付かないうちに、相手の“両極思考”や“とらわれ”などの特性に足並みを揃えてしまっていて、自分の思い通りの思考ができなくなっていたのでしょう。自分自身も問題が見えていないので、何を目的としてカウンセリングを受けるのかが見えていなかったのです。
何を相談すればいいのかがあまりに広範囲で、どうしていいかもわからなくなっていました。それくらいひとつひとつの問題が微妙な規模で、あまりに日常的に起こっていた違和感の連続だったということです。
このサイトを通じてメッセージをくださっている方から、以前頂いた言葉で
【“私は話しながら考えをまとめるタイプなので聞いて下さい”って相談してました】
というものがありました。当時狭い視野でガッチガチになっていた私が聞いていたら、ムーンウォークで後ろの壁に激突するくらい目からウロコだったと思います。
【“私は話しながら考えをまとめるタイプなので聞いて下さい”って相談してました】
というものがありました。当時狭い視野でガッチガチになっていた私が聞いていたら、ムーンウォークで後ろの壁に激突するくらい目からウロコだったと思います。
まとめ
何らかの問題や葛藤で板挟みになっている時は、往々にして視界が狭くなりがちなものです。多くの場合は、新しい知識や視点を取り入れることで、ブレイクスルーが起きるものですが、大切な人との関係となれば元々が視点が近すぎるので分かりにくくなるのだと教わりました。
妻と私の場合は、【私が問題の内容を認識していて、妻は問題があることしか認識していなかった】というズレが大きかったわけですが、この時に妻まで問題やズレを詳細に把握していたら、激しい衝突を起こしたり関係性に大きな亀裂が入るような事態になっていたかもしれません。
ジレンマが起きるということは、問題に対して立ち向かっている証拠ですから、後は理解を深めるだけのところまで来ていると考えると、流れの中では悪いことではないのかもしれません。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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