長男
書いてある内容をちらっと
人の目を気にしすぎて、【人といたいのに、人といると疲れる】という性質のあった長男。自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)としての自閉傾向はかなり軽い彼の、最も大きな峠であったと思います。
現在は小学4年生。彼にとっては人間関係の問題のほとんどが、この性質であったようで、今は逆に問題を見つけるのが難しいくらい伸び伸びと暮らしています。
ほぼ、この性質の特定から解消までが、彼の社会性の問題のまとめとしても、過言ではないかもしれません。
問題になりやすい点
【人といたいのに、人といると疲れる】という性質は、外ではあまり問題になりません。衝突することが少なく、また、離れてしまえばそこまでだからです。しかし、家庭ではそうもいきません。
家族といる限り、【上手くいくか・良く思われるか】と【ダメと言われるか・どう思われているか】など両極な思考にとらわれ、そこにいる相手からの評価を気にし過ぎて、リラックスできる状態を作り出せなくなります。
全てを受け入れて安心させるなどは、全くの逆効果で【もっと刺激的なコミュニケーションを】とか、【この前の心地よかった所まで出来ないと不安】と、満ち足りることも境界線を引くこともない関係に進んでいこうとします。
逆に理想通りでない関係に終わった場合は、【どうしよう】ばかりがグルグルと回り出し、相手の動き一つ一つに関わる隙がないかを探るようになります。
【どうしよう】の流れは実際に問題が起きなくても、何らかの不安・疲れ・本人も忘れている意識外の未解決問題・体調不良などでも発動し、一度気にし始めれば自分では止められない状態に陥ります。ここまで来ると、話しかけただけでフリーズを起こすので、会話での解決は難しくなります。
人目を気にする様になった発端
思い当たる彼の言動を遡って行くと、おそらく【人といたいのに、人といると疲れる】の発端となった“何か”が始まったのは、2歳中頃くらいだったと思われます。
─── “良い”と“悪い”の間に、全く段階のない両極思考。
全ての行動・選択を“良いか悪いか”で白黒つけてしまうため、思っていた事実と少し違うだけでも、大きく【悪い】と処理されていました。そうして、それがどれだけズレている事なのかを感じることがないため、それが“許されるか・許されないか”そこにいる相手に判断させる方式に定着していきました。
もちろん、こうした両極思考のような段階のない白黒は、2歳児くらいであればほとんどの子が持っているでしょう。通常はそこから人の反応や、現実に起こったことから【どこまで・どれくらい】などの、ボーダーを獲得して自分で判断をしていけるようになっていきます。
しかし、彼の場合はここで“許されるか・許されないか”を人に預けてしまう選択を取ったため、【どこまで・どれくらい】といった自分で判断するためのスケール獲得に遅れをとりました。
人といる時に常に人の行動を気にしていて、例えば自分がテレビで笑った場合でも、一度他人の顔を見て笑っていいかどうかを確認するような、人目を気にし、人に合わせる行動・選択への偏りはここから始まっていたのではないかと思います。
そうであったと仮定すると、彼の今までの行動ほとんどに、説明がつくようになったのです。
……確かめようはありませんが、でも、本当にそうであった場合、彼は実際の環境に関係なく、ひとり【過干渉を受けているのと同じ世界】にいたということになります。
対策1:自覚と実感を促す
彼は自分を評価できる人物が近くに来た場合、何かジッと集中できるタイプの作業や姿勢を取りながら、とにかく相手に意識を向け続けます。
……などなど。
これらはその時、本人には自覚がありません。そうすることだけになっているので不都合は感じませんし、自覚がないのでそうする事で起こる弊害や自分の疲れにも因果関係を感じることがありません。
相手に過剰な意識を向けることに、その時は問題意識を持ってはいないのです(問題化してしまうと後悔することで気がつくが、次に備える事も起こらない)。
因果関係が成立するには、原因と結果がつながる事が前提ですが、自分がとっている行動に自覚が無ければ、頭の中で理論として分かっていても気が付かないうちに失敗になってしまいます。
ここで失敗を指摘されると、さらに自信をなくして人目が気になり、負のスパイラルに陥る場合があります。
彼に取った対策の最初の段階は【指摘】です。
今、お父さんがあっち行ったり、こっち行ったりしてるのを、ずっと感じようとしてなかった?
今、ジーっとしながら気が付かれないように、人の様子をうかがってなかった?
ここでの指摘がピンポイントであればあるほど、自分がそうしていた実感につながることが多いようです。とは言え、人の感じている感覚や無意識の行動を、言葉で言い表すのは難易度が高いものです。
タイミングは【なぁ~んか、静かだな】という時に声をかけます。違っていれば『ごめ~ん、ならいいんだわ。そうなっちゃうと疲れちゃうから一応ね?』と、声がけ自体にも断罪などの意図がない事を前に出しておきました。
何度でも言い方を変えながら、時には【正解? ハズレ? 近い? 遠い?】など、どれくらいかを聞きながら精度を合わせていくのも有効でした。
言葉で言い表せられると、その後の自覚や実感の強さがグッと上がるようです。この特徴は妻や娘でも多く見られたポイントでした。
対策2:出会い頭の詮索を止める
どんなに思いとどまれるキーワードを見つけても、最初の思いつきや発想が刺激的で、それだけになってしまえばそれを思い出す事もできなくなる危険性があります。
こればかりは両極思考や表面思考など、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性も関わってくるので、長い時間が掛かるかもしれません。
しかし、問題として起こりやすいタイミングに、より強く理由が明確な発想が先にあれば、無意識のうちに気を奪われるタイプの習慣に刺激が勝る場合があります。
【相手が部屋に入ってきた時、顔を見ない】
長男にはこれを短期集中的に行なってもらいました。出会い頭での両極端な感じ方が、そのまま人間関係の距離として、それ以上の刺激が来ない限り続けられてしまうからです。
まずは意識をすぐに向けて、その一瞬で事実を決めてかかってしまう性質に楔を打った形です。
期間は2週間程度、明らかに スタート時からの失敗が減りました。同時にスタート時のつまづきがなくなるだけでも、かなり人目を気にする性質が大人しくなる事が分かりました。
対策3:【人は人、自分は自分】
対策2でスタートの失敗が減ったものの、これだけでは体調不良時やメモリが低下している時の、彼の性質は止めきれませんでした。
そんな中、彼を見ていて浮かんだ仮説がありました。
人目をただ気にしてしまうのも確かにあるが、余裕が無い時に悪化するのは、思考メモリが低下して他人との距離感をハッキリできなくなっているからではないか?
今まで妻がこういったメモリ関連での問題を超えてきた時は、【意識すべき項目の明確化・ルール付け】が大きなポイントとなってきました。
メモリを奪っているのはひとつのことだとは限らず、本人がそれらを認識していないことが多かったからです。そういう場合はひとつひとつの対策を練るのは不可能です。
そういう時は、なんらかのルールを強く意識しておくことで、思考に方向性を持たせる様にして、混乱を防ぐのが最も早く効果的な対策となりました。
長男の場合もこの対策に当てはめ、いくつかのルールを含めたキーワードを設定したのです。
人は人、自分は自分
ただし、相手が嫌がる場合は止めるべき
これらのお互いが確保されるべき自由のルールを説明し、納得がいった所で、【人は人、自分は自分】という言葉でまとめられることを説明。ふと、人の行動が気になってしまった時に、【気にしてしまった!】ではなく、【人は人、自分は自分】と頭で唱えることをルールとしました。
さらに、いきなりは難しいかもしれないとも思ったので、最初に追加で条件を付けました。
気にしちゃったり、勝手に不安に考えても、10分以内に【人は人、自分は自分】を思い出せればよい
この追加条件は、思い出した途端にゴールが見えるので、かなり大きな安心感につながったそうです(本人談)。
集中に逃げられる遊びや作業の禁止
これも【出会い頭】のルールと同じく、短期間に行なった対策の一つです。
どうしても人目が気になってしまう期間が続き、精神的にも追い詰められている時に、彼は何か集中できる遊びや作業に没頭しようとします。
しかし、実際は没頭しているわけではなく、意識はどこか【気にする】ことからは離れられておらず、その作業を中断した途端に“さっきまで、昨日まで、いつもは、どうやって相手の前で過ごしていたんだっけ?”と、急転直下のパニクに陥る危険性が高くなります。
……眠れない時に視線の置き方や、舌の置き方、意識の置き方を意識してしまって、余計に眠れなくなるほどの集中力を生み出してしまうのと似ているかもしれません。
短期集中的に、そういった集中に逃げるのを抑えるわけですが、その時にもひとつのキーワードがポイントになります。
“何もしていない”事に慣れてしまえ
これもわが家の自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)当事者の3人に共通していたことなのですが、とある感覚が実際に不安を感じていると取り違えている様子が合ったのです。
人といる時の【何か追われる様な使命感】は、もしかしたら間が持たない時や、やることがない時の手持ち無沙汰を、不安な気持ちと勘違いしているのではないか
3人共、この観点に気がつくか、この観点に陥らない様なキーワード付が成功した時に、人目を気にしすぎる性質が治まった気がします。そして、家でクリア出来ると、そのまま外の生活でも同調して行きました。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。