誰かを叱った後、こちらが笑顔を見せるタイミングって結構大事だなぁと個人的には思っていたのですが、長男(軽度アスペルガー症候群)が生まれてASD(自閉症スペクトラム)を知るまで、【なぜ、自分の子どもには、叱った後に自然に笑顔を作れないのか】と悩んだ時期があります。
今までの人間関係ではそういうことは全く感じたことはなく、どちらかと言えば【怒り】と【許し】に上手く付き合えていたと思っていたのですが、長男と娘にはそれが難しくなる事ばかりでした。
当時は【自分に似ているから怒りたくなるって言うしな……】とか、【子育てに向いていないのかな】とか、【大人じゃないのかもしれない】と自信喪失になっていたほどです。
しかし、次男が生まれ同じく叱った後、苦労なくお互い笑顔に戻れていることに気が付きました。彼の行動を観察していると、今までの人間関係でほぼ無意識に利用していた【こちらが気持ちを切り替えやすくなる】パターンがあったことに気が付きました。
今回は定型の次男と、ASD当事者の上ふたりとの比較から、【叱った後に笑顔が取り戻せなくなる】心理をまとめてみたいと思います。
次男と私の叱られた後の共通点
現在4歳の彼は甘えん坊で、叱られると落ち込みやすい面もあるのですが、30分後程度に『さっきは~~してごめんなさい』と謝りに来れる手練です。このタイミングがなかなかに絶妙なので、自然とこちらも笑顔で抱き寄せたりが出来ます。
実はこのやり方は、私自身も幼い頃親にやっていた方法で、今でもあの独特な気まずい時間とそのために編み出した対処方法をハッキリと憶えています。
私が彼と同じ年頃に、親に叱られた後はその気まずさがあるものの、すぐに場を移さず、かと言って追い回しもせずおもちゃで手を動かしながら、あるタイミングを待っていました。【親の怒りが治まる頃】です。感覚的には親のあからさまにこちらを見ないフリなど、不機嫌アピールがなくなった時です。できればその直後が望ましい。
すぐに謝っても刺激するし、その後を放っておくと時間が掛かるし何より気まずい。親の鼻息が治まる頃合いです。それがだいたい30~40分。美味しいのは家事で親が洗濯物を干しにいくなどの自然な時間稼ぎと親の気分転換があった後です。その後に【ごめんなさい】と伝えたり、思ったよりも親の表情が軽いようであれば、楽しいことを話しかけるなどを経験から絞り出し、辿り着いていました。
言葉にすればこんな感じですが、実際に謝られる側に立ち、意識的に相手の行動を観察する必要に迫られたのはこれが初めてでした。
そうしてみると【鼻息が治まる頃合い】を見計らう感じは、今思えばこれまでの人間関係でも色々な人物にされてきていた気がします。そういう相手からの態度や気配は、明らかに【関係を自ら取り戻そう】とする姿勢が感じられたため、こちらも余裕を持って笑顔を作ることができていました。
要は、そうして叱った相手からもチャンスをもらえていたのです。
わが家のASD当事者たちのパターン
結論から言うと、こちらが笑顔を取り戻せなくなるのは、【関係を自ら取り戻そう】とする姿勢が見られずに、こちらが一方的にチャンスを作り続けていた場合に起きていました。
この【関係を自ら取り戻そう】とする姿勢が相手からもらえない場合、こちらが復帰するには“状況整理・憤りの解消・思い直すための余裕の確保”など、かなりのエネルギーが必要となるのです。
同時にこの姿勢を感じられないことは、【関係性に継続の意思がない】との薄っすらとした疑念を抱くことにもなりかねません。
この姿勢を本人が消失するのは、以下の様なパターンもしくは複合的に合わさってハングアップが見られました。
小パニック状態
叱られた以外の事で、今現在、生活の中にいくつかの【分からない】を抱えていて、そこから生まれている不安に気がついていない小パニック状態。
謝る気がないのではなく、【関係性に継続の意思がない】のでもなく、【どうしよう】とか不安だけが回り、声が出ない。何を言っていいのか分からなくなる。場合によっては何を叱られているのかが分からなくなる。
謝る気がないのではなく、【関係性に継続の意思がない】のでもなく、【どうしよう】とか不安だけが回り、声が出ない。何を言っていいのか分からなくなる。場合によっては何を叱られているのかが分からなくなる。
真顔が怒り顔と同等の両極的な捉え方
こちらがもう怒っていなくても、直前の刺激的な関係の変化から、【0か100か】といった両極思考に陥り、こちらが笑顔でなければ安心できない状態。お互いに叱った側の笑顔復帰に気まずい状況で望みを持っている(お互いそれ以上動けないので長引く)。
着地点の消失
叱られていて、刹那刹那、色々な事を想い、考え、本人も凹んでいるものの、では最後の【~~してゴメンナサイ】に対し、何をどう謝って手打ちにするのか見失っている。
完璧主義による不安
着地点の消失に似ているが、何を謝るか、何をどう言おうか失敗や否定を恐れて決めあぐねてしまう。【なんでもいいから言葉にして気持ちを伝える】が発想すら沸かなくなる。『こう言って間違いではないか、この言い方が正しいのか』など。
喋り出しの喉の感覚と【泣きそう】の誤認
緊張から黙ると、話初めのための空気の保持をしにくい姿勢になっていたり、喉が開きにくくなったりする。その感覚が【今、声を出したら泣きそうだ】と勘違いをしている。これが進むと、【自分が可哀想だ】と思い込みやすくなり、余計に声を出すための勢いを失う。
主に挙げるとこれらになると思います(他にも色々あるが、特性によるのでこれくらいに)。
【叱られる】から生まれる相互的な価値
これらのほとんどは本人は謝意や反省があるにも関わらず、そこに至る前段階の状態を特性によって行動に移れない様にされているものだったりします。
しかも、これらはASDだからこそというものではなく、だれでも持っていて、その境界線が曖昧な関連のものです。だから本来誰で似でも起こりうるパターンです。
ここでポイントとなるのは、【だから周りが理解して下さい】なんて何の効果も産まない薄っぺらい話ではなく、【だから話す余地がある】と捉えると、謝罪を受ける側に新たな視点が生まれてくるということです。
【受け止めているからこその沈黙】
単に叱った後、次から叱られないように合わせる相手と、納得がいってから動き出し、それを順守する人間とであればどちらに【叱る】と言うエネルギーを捧げる価値があるか。
そもそも【示唆、教える、指摘、注意、叱る、怒る】という、友好的で共に有りたいと思うから出てくる同種としての行動と、【示唆、警告、怒鳴る】といった、外的な繋がりの薄い相手への要望の主張と同じく、人と人との繋がりには段階があります。
相手への繋がりや価値を見出していなければ、相手の是正を含めた【叱る】という行為は、ただの骨折り損です。では、【そんな骨折り損はやめればイイ】と片付ければいいかと言うとそうではありません。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の当事者だけではなく、多くの人間が社会的に抱えている人間関係の不安の多くは【別離不安】です。その別離とは単に離れてしまう事だけでなく、自分が人に何らかの効果を残せたと感じる自己評価の一貫と同じ、自分を認めるための作業です。
【そんな骨折り損はやめればイイ】で片付けてしまうと、人が人といて、相互的に自分の評価を下し、そうしながら【自分は必要とされている】と感じるための、最も霊長類として明確な【達成感(至福でもよい)】を感じるための相互関係を、自ら受けられないようにしている事でもあるのではないでしょうか。
妻のモデルケース
長男と娘は現在こういった概念を認識しつつ、それらを普段の生活に潜む矛盾とぶつけあいながらリアルに学習しています。そして妻はこれらの社会的な学習を、私とのぶつかりの中から学んでくれました。
【理想的な言葉でも正解でもなく、今、不安の種となっている“これ”を伝えるには、数打たなくては(しゃべらなくては)不可能だ】
彼女本人がASDを知ってから1~2年で、様々な体験を元に、実感とともに辿り着いた答えです。彼女はこれに似た考えを言葉として知ってはいても、自分の生き方として認識するには具体的なシーンと、そこでの【ああ、これか】が必要だったようです。
この件の詳細は非常に多くの背景を必要とする可能性があるので、後日【アスペ妻の記録】で紹介させていただこうと思います。
叱った側の不安因子は、当事者の特性を理解することで一気に解消されることがあります。
【許す】とは相互関係なのかなぁと、ここまでの流れで思っています。叱った側が一方的に許すのでも、叱られた側のコミュニケーション能力で許されるのでもなく、【許す】は当事者同士お互いに寄り合うものなのではないでしょうか。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。
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