運動会といえば不安定。不安定といえば運動会。
娘の過去を振り返ると、実に運動会は様々な問題の引き金となる、魔の摩耗期間であった。保育所最後の運動会で、【自分の立ち位置】を明確にすることで、競技中のぐずりを完封できたものの、やはり練習期間中の不安定感は対応し切ってあげられなかったというのが正直な所。
そして、小学校はじめての運動会が迫る中、やはり娘は“なんらかの引っ掛かり”が生じ、今までの【生活の仕方】を忘れ始めてしまった。
いや、生活の仕方などはないのだが、まるでそういうものがあったかのように、ひとつひとつの行動に戸惑いや不自然な様子が見られ、やがて緊張状態から軽いフリーズを起こすようになっていた。
そして、とうとう腹痛と熱が始まり、彼女の顔色は灰色一色にとあせていった。
⇒逃場を失わないとやらない・出来ないと思い込む│AS見えにくい完璧主義
“出来ない”ではなく“何かに余計に構えた”
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)であり、まだまだ一年生は幼い時期。それもまだ入学してから1ヶ月と少し。環境の変化に疲れてしまうのは当然といえば当然です。
ただ、これも彼女独特な性質で、だからこそ放っておいてあげられない理由のひとつが、今回も大きく出て来ていました。
【純粋に“出来ない”とか“苦手”で辛いのではなく、何か余計なことをしようとしていて辛くなっている】
という明らかにぎごちない様子です。その何かが本人の中で整理がついていないために、説明できないどころかただ困惑していて、疲れを助長したり認知を大きく歪ませて、後々にいわれのない苦手意識にしてしまう流れ。
この【何か余計なこと】が斜め上の発想だったり、思いもよらぬ事を大きく捉えている事が多く、それを実感を持って理解しない限りは時間を負うごとに苦痛ばかり積み重なっていくのです。
そして、それが何かを突き止めるのが一番難しい。
特に子供は自分の気持ちを理解する経験値が少ないですし、それほどの発達を迎えるのはまだまだ先です。
さて、『苦しむのも本人の自由。いつか自覚できる様な成長を遂げる事を信じて、本人の自由意志にまかせて祈りましょう』と考えるか、『本人が苦しむのはかわいそう。極力そう言うことから引き離してあげなきゃ』と考えるか、『じゃあ、【何か余計なこと】が何なのか、分かる時期になるまでは一緒に、もしくは変わりに考えてやればいいじゃん』と考えるかで、教育方針は大きく変わります。
わが家の場合は『じゃあ、【何か余計なこと】が何なのか、分かる時期になるまでは一緒に、もしくは変わりに考えてやればいいじゃん』です。
娘本人の本当の意思は分かりません。本人は“辛い”か“そうではない”か“楽しい”かでしか、まだ自覚して言葉にできないのですから。しかし、今までにその原因を見つけた時に見せてきた彼女の顔色の変化は、彼女自身の言葉よりも明白です。
【灰色⇒桃色に顔色が変化する瞬間】
いろんな情報に恵まれ、やや早足で駆け抜けてきたわが家だからこそ分かる、あの顔色どころか発する空気まで変化する瞬間。時に大きなため息を吐きながら、人心地を取り戻す弛緩の瞬間は、どれだけ本人が辛く張っていたのかがヒシヒシと伝わり、また一歩、彼女を理解できる瞬間でもあります。
見えにくい完璧主義と流れ
運動会の練習が始まり、本番が近づくに連れて始まったのは、【いい子でいようとする】傾向。
必要以上に気を引く行為であったり、逆に注意をされないように大人の前では露骨に大人しくしたりなど、常に表情もそれに合わせて作っているので、どこか演技がかった顔のまま、目を合わせないようにする時間が増えていきます。
人の会話にも聞き耳をじっと立てつづけていたり、ただ部屋を歩くだけなのに誰かを意識したようにぎごちない。生活全てが【誰かの目】を気にした言動に支配されていくのです。
こういう時はリラックスすることはありませんし、どうして自分がそうしているかの理由も、そうしている自覚すらもなかったりします。自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の特性である、両極思考(0か100か・白か黒か)でとらえた、人間関係の質への白黒も現れます。
原因は何であるか。多くの場合は環境の変化への疲れや、体調の変化に鈍くて薄っすらと困惑し始めている時に集中しますが、表情も行動も毎回同じなので、原因にたどり着くのは毎回至難の業です。
いきなりピンポイントで当てられるのは、本人でもない限りは不可能なので、ひとつひとつの行動に注視し、明らかに本人に無理が見られる場合や、周囲が不快に感じた場合は【どんな行動をとったか・こちらの目にはどう映ったか・どういう時に取る行動である場合が多いか】を説明しています。
一発で解決することはありません。このパターンは声をかける度に緩和しつつ、結局超えられないため、再発を繰り返しながら段々と実際の問題が膨らみ、暴発することで露呈する流れが基本です。
今回もそのパターンで、結局運動会の前日の夜、ようやくこの不自然で消耗を繰り返す原因を突き止めました。
フタを開けてみれば、長男の入院の時と同じ、【完璧主義と葛藤を煩わせた】状態でした。
娘の場合の完璧主義対処
運動会前夜の実際の会話より一部始終
私『今、お父さんは怒った顔をしている? していない?』
娘『……してない』
私『じゃあ、今から話す事は、君が【悪い子】って言いたいんじゃなくて、【こうするとラクになるよ】って話だから、そういう風に聞いてもらえると助かるんだけど、いいかな?』
娘『…うん』
私『聞いてる顔とか、わかっている様に見せようとかもしないで、自分のことだって分かろうとして聞いてね』
娘『うん』
※ここまで前振りの儀式
私『ここのところ何日間か、娘はお父さんの前で失敗しないようにしたり、注意されることがないように頑張っちゃってない?』
娘『あ……うん』
私『家族は? 家族はどうしているのがいいんだっけ?』
娘『家族はただいるだけでいい』
私『【注意されないように】とかって、【いい子でいようと頑張ってる】ってことだよね。それは【家族はただいるだけ】になってると思う?』
娘『……ない』
私『言葉はちゃんと全部いおう』
※言葉の省略や短縮・意味合いの曖昧処理回避のため
娘『……家族はただいるだけになってない』
私『そうだね。頑張っちゃっているんだから、【お家はラクにするところ】も忘れちゃってるよね』
娘『……うん』
私『それがただ悪いって言いたいんじゃあないんだ』
娘『……ふぇ?』
私『そうやって【いい子でいようと頑張ってる】君をお父さんが褒めて、仲良くなったとしよう。で、それだとさ、【お父さんが好きなのは頑張っていい子になってる君】であって、ふつうの君には興味がないってことにならない?』
娘『…………!』
私『家族はただいるだけ、放っておいても近くにいて、お互いの思ってることや気持ちがわかってくると、自然と仲良くなるんだよ。【お父さんが好きなのは頑張っていい子になってる君】になっちゃったら、本当の君のことをお父さんが分かって、そのままの君を大好きになる日はくると思う?』
娘『……こない』
私『そうだね。お父さんは人に“好きになるように”とかコントロールされたり、無理やり仲良くなるのは嫌だ。みんなそうやってコントロールされるのは嫌なんじゃないかな? 君も自分の自由に仲良くなったりしたくない?』
娘『うん』
私『でもね、こういう風に家族に無理しちゃったり、【いい子でいよう】って頑張っちゃうクセは、これが初めてじゃないんだけど、前にこういう話になったのを憶えてるかな?』
娘『……うん』
私『ああ、“またやった”とかそういう事を言いたいんじゃないんだ。今、君がこうなっている理由を知りたいんだよ。だって、こういうの、もうやらなくなっていたでしょ?』
娘『あ……うん』
私『なにかうまく行ってない事とか不安な事とか、学校で起きてない? そういうことがあるんじゃないかって思ってるんだ』
娘『……うんどう会が……けっこうちょっと……だいじょうぶかなっておもってる』
私『(……!)ああ、上手くできるかなって?』
娘『……うん』
私『それはちゃんと練習通りできるかとか、ボーっとしちゃわないかとか?』
娘『……うん(涙目)』
私『……娘。大丈夫だよ。それお兄ちゃんもやってたよ。ほら、お兄ちゃんが前に入院したの憶えてる?』
娘『うん。おなかいたくなったときでしょ?』
私『そう、お兄ちゃんはその時、【マラソン大会がうまくできるか不安や…】って考えすぎた後、続けてやることになった器械体操発表会で、【うまく鉄棒出来るか不安や…】って考えすぎてお腹痛くなったんだわ』
娘『おにいちゃんが?』
私『うん。君もお腹痛くなったでしょ? あれを何日も続けて、とうとう身体がたえきれなくなっちゃったんだ』
娘『…………』
私『ねえ、お兄ちゃんが治った時の話、聞きたい? ちょっとした言葉を言ってあげただけなんだけど』
娘『しりたい!』
私『で、君はマラソン選手になりたいんか?』
娘『え?』
私『あと、【君は鉄棒が出来なかったら死ぬんか?】』
娘『ええ?』
私『あとは【君は恐竜博士になりたいって言ってたけど、それにはサッカーで優勝しなくちゃならんのか?】』
娘『あははははh』
私『そんなわけないよね。でもね、お兄ちゃんはその時、そういうことが分からなくなるくらい必死でやってたんだよ。それは君の運動会への不安と同じじゃないかな?』
娘『あ……うん、ああ……』
私『あのさ、学校に何しにいってるんだっけ?』
娘『べんきょう』
私『うん。勉強は【分かるようになるため】にするんだよね? で、お父さんや先生は【100点を取るために】って一言でも君に教えたかな?』
娘『ううん、いってない』
私『そうだよ。君が分かるようになってくれることが学校にいく目的だし、そうなってくれるのは先生もお父さんも嬉しいけど、大事なのは君がわかってるかどうかで、お父さんたちの喜びは関係ないよ』
娘『うん』
私『で、運動会も同じ。こういう時にこういう風にするもんだって分かってくれていればいいんだ。100点は大成功だから何としてでもとろうとしなくていいよ。70点くらい取れてたら合格なんだ。それくらいは君、ラクにしててもできるでしょ?』
娘『70点! 70点くらいでいいんだね!?』
私『うん。それで十分だ。それなら楽しもうとできるでしょ?』
娘『うん!(灰色⇒桃色)』
……とこういった感じでした。
やや疲れは残っているものの、なにかしら『70点でいい70点で』と声がけしてたら、本人も気楽になり行動範囲を取り戻しています。
娘が家族に対して完璧主義に陥る時は、何かしら外での問題が関わってくることが分かっています。以前は会話が出来ないくらいに急転直下していたので、まずはパニックを凌駕するほどの刺激が必要になったり、眠り続けるなどの一人きりの休養時間が長く必要になっていたのです。
現在はこうして本人の気になっている分野の事を、本人に投げかけて反応が見られるだけの余裕を確保したので、短期間で特別な対処がなく、会話でアプローチ出来るようになりました。
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中の人
夫。30代。
定型。フリーのデザイナー。
自宅で仕事をするかたわら、家事・DIY・訪問営業撃退に勤しむ。 本人は定型だが、何かしら発達障害との縁が深い。
心労と過労で3度倒れ、一時はうつ状態に。 ところがどっこい完治なタフガイ。